台湾は「蝴蝶蘭王国」(コチョウランの王国)と称えられてきたが、在来種のコチョウランは乱採や生息地の破壊により野外で見られることは極めてまれとなっている。辜厳倬雲植物保種センター(Dr. Cecilia Koo Botanic Conservation Center, KBCC)が2007年に創設されてから収集し、種の保存を行っている熱帯及び亜熱帯の植物は3万3,000種あまりで、コチョウランもそのひとつ。収集した世界のランは9,000種あまりに達している。同センターはここ2年、「コチョウラン帰郷プロジェクト」を再開、ランたちを元来の生息地に戻して「密やかに咲くラン」を谷間に復活させようとしている。
同センターで収集を担当する陳俊銘シニアマネージャーによると、センター設立時からランの遺伝資源は保存していた。ただ、分子生物学による親植物の鑑定技術がまだ成熟していなかったため、材料を集めたり繁殖技術を試したりするしかなかった。しかしここ2年で鑑定技術が発達、同じ種のグループ間の微細な違いを見つけることが出来るようになったことから「コチョウラン帰郷プロジェクト」を再開したのだという。同プロジェクトではまず、台湾の在来種であるコチョウランから始め、最終的には世界のコチョウランを本来自生していた場所に戻せることが目標。
台湾における在来種のコチョウランは「白花蝴蝶蘭」と「姫蝴蝶蘭」の2種。「白花蝴蝶蘭」は標高100メートルから400メートルの広葉樹林で育つ。台湾最南端の恒春半島から台湾南東部の台東県、そして離島の蘭嶼まで分布している。在来種の「白花蝴蝶蘭」はコチョウラン産業にとって育種のための重要な親植物で、一般に見られる大きな花をつけた「白花蝴蝶蘭」は在来種を他と交雑して生まれた「子孫」である。
在来種の「白花蝴蝶蘭」は花を300輪咲かせることもでき、風に揺れる姿はさわやかかつ上品。当初は「amabilis」(アマビリス)という名称から「台湾阿嬤」(台湾最大の方言、台湾語で「台湾のおばあちゃん」という意味)と俗に呼ばれていたが、その後植物の分類が改められ、「aphrodite subsp.formosana」となったことで、今度は「阿婆」(標準中国語で祖母や老婦人を指す)と呼ばれることに。「白花蝴蝶蘭」は日本占領時代から多くの国際コンクールに出場し、台湾のランの知名度を高めた花でもある。
一方、原生の「姫蝴蝶蘭」は離島・蘭嶼の南東に位置する小島の「小蘭嶼」にしか分布しておらず、今ではごく少量の個体が残るのみで保護が待たれている。
辜厳倬雲植物保種センターは台湾の最高学術研究機関の中央研究院生物多様性センターと協力、分子の比較照合を通じて元来台湾に属する個体を探し当て、将来の復活の基礎にしたいと考えている。陳俊銘シニアマネージャーの夢は、在来種のコチョウランが「自分で自分たちを養える」ようにすること。すなわち在来種を大量に繁殖させることで、市場のニーズに応え、人々が花を楽しむと同時に種の保全に向けた使命を担うようにすること。一方ではまた、野生の個体や復活した個体の採集に関する人々の負担を減らすこと。さらにランを販売した利益を繁殖に投じることで持続可能なサイクルを実現する。
「コチョウラン帰郷プロジェクト」は台湾からスタートする。陳俊銘シニアマネージャーは、標準的なモデルが出来れば、台湾の経験を海外に「輸出」し、世界のコチョウランたちをそれぞれの故郷に里帰りさせることが出来ると期待している。