ミシュランの星付きシェフ、台湾出身の江振誠（André Chiang）さんが10日、シンガポールで経営するミシュラン2つ星レストラン「Restaurant ANDRÉ」公式サイトで、2018年2月14日をもって同レストランの営業を終了することを発表した。江振誠さんは同時に、ミシュランへの星の返上と、拠点を台湾へ移して人材の育成に努める考えを明らかにした。
江振誠さんがシンガポールで経営するフランス料理レストラン「Restaurant ANDRÉ」は、2015年の「アジアの優れたレストランベスト50（Asia’s 50 Best Restaurants 2015）」で5位にランクイン。2016年には順位を2つ上げて3位に、2017年にはさらに2位を獲得した。また、「世界の優れたレストランベスト50」でも2016年、32位にランクイン。2017年は順位を大幅に上げ、14位にランクインした。また、2016年にはレストランの格付け本『ミシュランガイド』シンガポール版で二つ星を獲得。台湾北部・台北市で経営するレストラン「RAW」も、2017年「アジアの優れたレストランベスト50」で24位にランクインした。
「Restaurant ANDRÉ」公式サイトによると、江振誠さんは2018年2月14日をもって同レストランの営業を終了する。江振誠さんは、生まれ故郷である台湾に戻り、今後は台北市のレストラン「RAW」を拠点として、人材の育成と教育により専念する。公式サイトでは『ミシュランガイド』に対して、2018年シンガポール版の選考対象から「Restaurant ANDRÉ」を外すほか、刊行が予定されている台湾版についても、「RAW」以外のレストランに機会を譲って欲しいと求めている。
江振誠さんは、「今後は自分の経験と知識を、台湾や中国大陸の新しい世代に伝えることに専念したい」とし、「『Restaurant ANDRÉ』での栄光はやがて世界の美食家たちにとって記憶遺産となってしまうだろうが、自分はシンガポールとアジアのためにやるべきことを達成しており、一点の悔いもない」と書き込んでいる。
江振誠さんが台北市内で経営する「RAW」は収容人数60人程度のフランス料理のレストランで、米の情報専門チャンネルCNNはかつて「台北市で最も予約が取れないレストラン」と紹介したことがある。2週間前から予約の受付を開始するが、毎回数秒もしないうちにすぐに予約が埋まってしまうと言われている。
江振誠さんはジョエル・ロブション（Joel Robuchon）氏やピエール・ガニェール（Pierre Gagnaire）氏といったフランスの有名シェフの下で学んだあと、フランス南部の都市モンペリエ（Montpellier）にあるミシュラン三つ星レストラン「ル・ジャルダン・デ・サンス（Le Jardin des Sens）」でシェフとして活躍。その後、シンガポールへ渡り、「Restaurant ANDRÉ」をオープンさせた。
江振誠さんはかつて、「台湾料理は低く評価されている」と述べたことがあった。このため台湾に戻り、故郷の美味しい食材を使って料理を作りたいと考えることは「至って自然なこと」だと考えている。そして、「一人の台湾出身者として、台湾で我々の世代が考える台湾の味を再定義することは、自分の責任だと考えている」と述べている。
このためレストラン「RAW」では、旧暦の二十四節気に合わせて変化に富んだメニューを提供し、台湾本島で収穫される最も旬の食材を使用している。「台湾は地理的条件に恵まれている。魚介類であれ農産品であれ、高価な食材を買い求める必要がない」、「台湾にあるのはどれも、それほど重視されない食材だ。しかし、それらはいずれも最高の状態で供給されている」と江振誠さんは語ったことがある。
料理を愛する江振誠さんはまた、複雑な飲食文化をシンプルなコンセプトにまとめた「八角哲学（Octaphilosophy）」という言葉を生み出した。メニューにあるのは「Pure」、「Salt」、「Artisan」、「South」、「Texture」、「Unique」、「Memory」、「Terroir」というたった8つの単語だけ。この8つの単語は、それぞれ異なる元素を代表しており、そこから派生した8つの料理を生み出しているという。