台湾における同性愛者解放運動の先駆者、祁家威さんがこのほど、NPOのAPCOM(Asia Pacific Coalition on Male Sexual Health)の第1回「エイズと性別を超えたアジア太平洋英雄賞(HERO AWARDS: HIV, Equality and Rights)」の受賞者21人の1人に選ばれた。祁家威さんは先ごろ、第9回総統文化奨(賞)の5部門の一つ、「社会改革奨」を授与されたのに続く受賞となった。APCOMはタイのバンコクを中心に活動するNPOで、国連システムのパートナーの一つだという。
「子どもの頃からこれまで、同性愛に反対する人に出会ったことが無い」と話す祁家威さんは、家族に打ち明けた時、1分も経たないうちに受け入れられて支持されたという。また、兵役中、そして社会に出てからも排斥されたことは無い。祁さんはこれまでの人生が順調で、一部の同性愛者のようにつらい思いをしてこなかったからか、「神様は自分を同性愛者解放運動に取り組むべき人間に選んだのだろう」と話す。抵抗にあわなかったからこそ、運動を推進するのに恐怖感が無いのだという。
祁家威さんによれば、30年前、同性愛者解放運動を語っても、表立って反対する団体は無かった。運動に携わって以来ずっと、「祁家威が話すと誰も反対しないが、別の人だと反対する。ならば自分が話せばいい」という状態だった。祁家威さんは同性愛者の人たちの権利を勝ち取るため、モンゴル・チベット委員会(日本の省レベル。今年9月より業務が他省庁に配分され、近日中に廃止の予定)を除いて全ての政府省庁を訪ねた。
長期にわたって同性愛者解放運動に取り組んできた祁家威さんはその間、常に結婚に挑戦してきたが成功しなかった。戒厳令が敷かれていた時代には政府に事情聴取されたこともある。また、同性愛者の権利について憲法解釈を求めても最初は受け入れられず却下された。その後、ある同性カップルが、婚姻が認められないことを不満として民事訴訟を起こし、当時の裁判官が憲法解釈を申請しようとした。ただこのカップルが結局訴えを取り下げたことで憲法解釈が実現しなかったのを見て、祁家威さんはもう一度、憲法解釈を目指すことにした。
今年行われた憲法解釈は同性愛者の結婚に希望の光をもたらした。司法院(中華民国の最高司法機関)大法官は今年5月24日、釈字第748号「同性の二人による婚姻の自由に関する憲法解釈」を発表、現行の法律は同性結婚を保障していないと判断し、主務機関に対して、宣告後2年以内の法改正を命じた。
この憲法解釈の結果が出ると、今度は同性結婚を特別法で保障すべきか、民法で保障すべきかが社会で議論されることになった。祁家威さんは、立法院(国会)には委員会審議を終えた民法改正案があるが全く審議されておらず、政府は特別法の制定に傾いているのではと指摘。その上で、自分を含む一部の同性愛者の団体はこれを受け入れないとして、特に憲法解釈から2年という制限時間内に特別法が成立することは望んでいないとの立場を示した。ただ、この考えは全ての同性愛者団体が支持するものではないということで、祁家威さんによれば、特別法か民法かを問わず、1日も早く同性結婚が認められ、同性愛者の結婚が可能になることだけを望む人たちも確かに存在する。
同性愛者解放運動の先駆者である祁家威さんと同性愛者の団体で意見が分かれることは初めてではない。20数年前、ある同性愛者の団体は公聴会を開き、そこで祁さんを「派手な言動で人気を集め、メディアを操ろうとしている」と攻撃した。祁さんは、当時は自身の過激な行動を支持しない人もいたと認める。特に祁さんがHIV(エイズ)に感染した同性愛者が故意に危険な行為を行っていることを告発したことで、祁さんをよく思わない人がいたのだという。しかし祁さんは、エイズが発症したならば助からなかった時代であり、ソーシャルワーカーの資格を得ないままカウンセリングなどを行っていた自分ではあるが、道義に反する行為を目にして告発しないわけにはいかなかったと説明している。
同性結婚が認められることになり、この問題では新たなマイルストーンにたどりついたことになる。今後の議題として考えられるジェンダー平等教育の問題について祁家威さんは、できるだけ小さい時から教えるべきで、「教えてこそ問題は起きなくなる」と話す。「子どもたちは閉鎖された世界で生活しているのではない。今の若者は教えなくても別のルートを通じて関連の知識に触れるだろう」と話す祁家威さんは、様々な形の家庭が現れる未来に備えて、早く教えてこそ子どもたちがいじめに遭うこともなくなると強調した。
祁家威さんは、「性的指向は変えられない。金銭を与えれば同性との性行為を厭わない人もいるかもしれないが、それでその人が同性愛者になるわけではない」と話す。祁さんによれば、海外の「男娼」市場も異性間の性行為が主流で、特定の性的指向を無理強いすることはできない。ジェンダー平等教育の考え方は、子どもたちが素直に、自分の性的指向に向き合えるようにすることで、同性愛の魅力を誇張したとしても無理に受け入れさせることは出来ないのである。