「自転車に乗ることは永遠に、私の生命において非常に重要な一部であり続けるだろう」と語るのは米ニューヨークからやってきたジョシュア・サミュエル・ブラウン(中国語名:葉家喜)さんだ。自転車に乗ることが好きで、米国にいた頃は自転車便の仕事をしていたこともあったほどだ。
ひょんなことから1994年に台湾にやってきた彼は、すぐに台湾のことが好きになった。葉家喜という中国語名も自分でつけた。とは言うものの、最初のうちはほかの外国人と同じように、台湾(Taiwan)とタイ(Thailand)の区別もつかなかった。台湾に対する唯一の印象と言えば、李安(アン・リー)監督の映画『飲食男女(邦題:恋人たちの食卓)』や、車やオートバイがひしめく道路といった程度のものだった。
「映画で見る限り、台湾で自転車に乗るなんて全く不可能なことだと思っていた」と語るブラウンさん。その頃は、自転車を取り巻く台湾の環境がたった20年間でこれほど大きく変わるとは想像すらしていなかった。
「いまでは4,500㎞を超える自転車専用レーンが整備されている。台湾は自転車に向いていない場所から、自転車愛好家たちの天国へと変化した」とブラウンさんは喜ぶ。
ブラウンさんは1998年、初めて自転車で台湾東部を走った。台湾東部の花蓮県瑞穂郷、太魯閣(タロコ)渓谷、南東部・台東県の景色を飽きるまで眺め、そこに台湾のサイクリングツアーの魅力を見出した。
ブラウンさんは、世界的に著名な旅行ガイドブック『ロンリープラネット』のトラベルライターでもある。台湾を愛する彼は、台湾の観光スポットを紹介する『Lonely Planet Taiwan』をこれまでに2冊出したことがある。また、中華民国対外貿易発展協会(日本での名称は台湾貿易センター、略称TAITRA)や雑誌社の依頼を受けてサイクリングツアーに関する文章を執筆しているほか、インターネットでも台湾でのサイクリングツアーに関する情報を発信し続け、台湾の美しさやサイクリングツアーの楽しさを宣伝している。
ブラウンさんの文章を読んだ外国人からは「台湾は本当にそんなに美しいのか?」という質問をよく受ける。そんなときブラウンさんは決まって「台湾の美しさについて、100%保証することはできない。だからぜひ一度、来てほしい」と自信満々に答えるのだという。台湾の魅力とは何か。ブラウンさんは「台湾に来るべき理由なら100個でも挙げることができるよ」と誇らしげに答える。
例えば自転車。それにサーフィン、ダイビング。中華文化に加え、先住民族の文化や、日本が残した文化など、多元的文化の融合を見つけることができる。それにアジアで最も美味しいグルメの数々。自転車で各地を訪れれば、台湾の自然景観や歴史や文化をじっくりと味わうことができるとブラウンさんは指摘する。
台湾で最もおすすめのサイクリングスポットはどこだろうか。「行くべき価値があるところはたくさんありすぎる。しかし、やはり太魯閣だ。中国大陸で言うところの万里の長城のように、誰もが知る有名な景勝地でありながら、訪れるたびにその素晴らしさにため息が漏れる」と話すブラウンさん。太魯閣以外のスポットとしては、ブラウンさんにとってナンバーワンのプライベートスポットだとして、海外の観光客があまり訪れることのない梨山(台湾中部・台中)を挙げた。
梨山は決して走りやすいところではない。だから、ブラウンさんがサポートしたサイクリングツアーのメンバーからも、不満の声が上がることも少なくない。しかし、山頂にたどり着くと、誰もがその美しさを称え、喜ぶ。幾多の苦難を乗り越えて梨山にたどり着き、腰を下ろして熱いコーヒーで体を温める。目の前は一面の雲海が広がる。「それはまるで天国にいるかのようだ。こんな美しい景色を忘れられる人は誰もいない」とブラウンさん。
台湾をこよなく愛するブラウンさんだが、しばらく前にアメリカへ帰ったとき、現在のガールフレンドと知り合った。「すでに自分の中では、必ずまた台湾に戻ると決めていた」というブラウンさん。交際を始めるにあたり、一緒に台湾で生活をすることを相手に求める唯一の条件とした。「自分を愛してくれるのなら、一緒に台湾に行ってほしい」。ブラウンさんはガールフレンドにこう伝えた。こうして交際を始めた二人。2016年末に台湾へ移り住み、いまは台湾北部・台北市で生活をしている。
ブラウンさんは現在、飛亜旅行社(MyTaiwanTour)で編集長を務め、文章を通して全世界に台湾の美しさを伝え、台湾のサイクリングツアーを宣伝している。昨年は『Formosa Moon』と題する書籍を出版。同書では、まだあまり知られていない台湾の隠れ家的スポットを紹介している。