2024/06/30

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幹細胞移植で特発性肺線維症を改善、台湾の研究チームが発見

2019/08/30
近年大気汚染の影響を受けて、台湾では特発性肺線維症の疾患率と死亡率がいずれも上昇傾向にある。国立陽明大学医学系(=医学部)の傅毓秀教授の研究チームは動物実験により、ヒト臍帯血にある間葉系幹細胞によって、線維化が進んだ肺の機能を回復させることに成功した。(国立陽明大学提供、中央社)
台湾胸腔暨重症加護医学会(Taiwan Society of Pulmonary and Critical Care Medicine)の推計によると、台湾における特発性肺線維症(IPF)患者は人口10万人当たり約6.4人である。特発性肺線維症とは、台湾で俗に「菜瓜布肺(「菜瓜布」はヘチマたわし、あるいはナイロンたわしを指す。つまり、ごわごわした肺のこと)」と言われる病気。肺胞の傷を修復する細胞が制御不能となることにより、もともと柔らかかった肺胞の壁(間質)が厚く、硬くなり、肺の線維化が起こる。線維化が進むと肺が十分にふくらまず、ガス交換がうまくできず、酸素不足により息苦しくなる。発症の原因は現在も解明されていない。また、ほかの病気と誤診されやすいため、患者が診察に訪れたときは症状が進行している場合が多く、発見時の平均余命は1年足らずと言われている。
 
台湾北部・台北市北投区にある国立陽明大学医学系(=医学部)の傅毓秀教授によると、近年大気汚染の影響を受けて、台湾ではこの病気の疾患率と死亡率がいずれも上昇傾向にある。特発性肺線維症の患者は、肺の患部で炎症や線維化を繰り返すため、治療のためにはまず症状の悪化を防ぐことが肝要となり、症状の改善は二の次とされている。
 
傅毓秀教授によると、過去に行った動物実験によって、ヒト臍帯血の間葉系幹細胞は異種間移植に適しており、肝臓や腹膜の線維化の治療に効果があることが分かっていた。このため傅毓秀教授は、高雄栄民総医院の朱国安医師、台北栄民総医院の陳天華医師や蔡佩君医師らと協力し、肺線維症の治療効果について研究を進めることにした。
 
国立陽明大学、台北栄民総医院、高雄栄民総医院の研究チームは3年間研究を重ねた結果、ヒト臍帯血にある間葉系幹細胞が、肺の線維化の原因となる炎症を阻止するだけでなく、体内にある白血球の一種マクロファージ(Macrophage)を活性化させることを発見した。マクロファージは瘢痕組織を食べ尽くし、肺の空間を清掃し、肺胞の再生を促して空間を作るため、硬く、ぼろぼろになった肺を再び柔らかくすることができるという。
 
研究チームはまず、薬物を利用してラットの肺胞に傷をつけ、肺の線維化を引き起こした。次に、肺胞の瘢痕組織が厚くなり、肺胞の面積が減少したラットに対し、高用量と低用量の幹細胞を移植して28日間観察した。すると、すでに線維化が発生していたラットの肺で肺胞の再生が起こり、また高用量の移植ではその効果がより明らかであることを突き止めた。肺機能のSaO2(動脈血酸素飽和度)は正常なラットが98%で、肺の線維化が進むとこれが80%に低下する。低用量の幹細胞移植治療を行なえばこれを85%に、高用量の幹細胞移植治療では93%まで回復できることが分かった。
 
現在はまだ動物実験の段階だが、薬物治療によってしか症状の悪化を制御できない特発性肺線維症の患者にとっては一筋の希望の光と言える。研究の成果は国際ジャーナル『Theranostic』にも掲載されており、今後は人体を使った治験(臨床試験)を行う予定だ。
 

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