米国で最も権威のある医学・医療雑誌『JAMA』公式ウェブサイトに3日、台湾における新型コロナウイルス対策が詳しく紹介された。「viewpoint」のコーナーで紹介されたこの文章を執筆したのは、米スタンフォード大学の王智弘(Jason Wang)准教授。文章の概要は以下のとおり。
★★★
台湾と中国は地理的に近い上、中国で生活したり働いたりする台湾人は非常に多い。双方の人的往来が頻繁なことから、当初、台湾における新型コロナウイルスの感染者数は中国に次ぐ世界2位に達すると予想されていた。
新型コロナウイルスは世界各地で感染拡大を続けているが、台湾が実施した迅速な対応を理解し、感染症の大規模流行を防ぐ上でこうした行動の有効性を評価することは、他国にとっても意義のあることだろう。
台湾はかつてSARS(重症急性呼吸器症候群)のまん延によって悲惨な経験をした。これが、今回の新型コロナウイルスへの素早い対応につながった。台湾はSARS発生の翌年、国家衛生指揮中心(National Health Command Center, NHCC)を立ち上げ、中央流行疫情指揮中心(=中央感染症指揮センター)、生物病原災害中央災害応変中心、反生物恐怖攻撃指揮中心、中央緊急医療災難応変中心などの機能と補完することで、より全方位的な防災システムを構築した。
台湾の感染症対策チームの行動は素早かった。感染症を拡大させるリスクの高い航空便を対象に、渡航者の検疫を実施した。また、いち早く国民健康保険証に登録されたデータと、移民署(日本の出入国在留管理庁に相当)、税関などとビッグデータを結びつけた分析を実施し、人々の渡航歴や臨床症状等から警戒レベルを判断し、スピーディーに感染者を探し出せる仕組みを作った。
台湾ではまた、新たな科学技術を入国者の検疫電子システムに導入した。台湾に戻る旅客は、航空会社のカウンターでチェックイン手続きを行う際、自身のスマホで指定のQRコードをスキャンして検疫システムのサイトにアクセスし、健康申告書に必要事項を入力する。すると、飛行機が台湾に到着後、スマホの電源を入れるだけで健康申告書の受理認証が発送される。スマホに届いた受理認証を提示すれば、スムーズに入国することができる。
また、新型コロナウイルスの感染が拡大している地域からの渡航者(本国籍、外国籍含む)については2週間の「居家検疫(=事実上の隔離)」を義務付けている。これらの隔離対象者については、スマホの位置情報機能などを利用して、隔離期間も外出しないよう監視している。
台湾ではこのほか、新型コロナウイルス検査の対象を積極的に拡大している。重症のインフルエンザに似た症状を訴えながら、インフルエンザウイルス検査では陰性だった人を対象を過去にさかのぼって調査し、新型コロナウイルス検査を実施したところ、実際に感染者の発見につながったケースもある。また、衛生福利部疾病管制署(=台湾CDC)の感染症予防ホットライン「1922」もその効果を発揮している。台湾の住民はこのホットラインを活用し、感染の疑いがある人を通報したり、新型コロナウイルスに関する問い合わせを行なったりしている。「1922」の負担増加に伴い、その他のホットラインも迅速に開設している。
資源の分配においても、中央流行疫情指揮中心は積極的な役割を演じている。それにはマスクの販売価格の制定、マスクの増産なども含まれる。このほか台湾では、新型コロナウイルスの感染者やウイルス検査を受けた人の問題解決についても同情的に取り組み、これらの人々が負のレッテルを貼られることがないよう努めている。
なお、2月24日時点の台湾における感染者は30人、世界順位は第10位にとどまり、当初の予想(世界2位)をはるかに下回っている。
★★★
王智弘(Jason Wang)准教授の寄稿(英文)はこちらで全文読むことができる。