2024/04/30

Taiwan Today

文化・社会

「実名制」販売のマスク、どんなものが出てくるかは買ってからのお楽しみ

2020/04/24
あるフェイスブックグループに投稿された中華民国国旗マスク。国旗がデザインされているマスクは珍しい上、確かに国旗の裁断位置がふぞろい。あらゆる意味で「レア」なマスクだ。(フェイスブックグループ「口罩 医療口罩 台湾製造口罩 酒精75% 防疫商品 口罩現貨即時資訊」提供、自由時報)
新型コロナウイルスの感染を防ぐ基本動作、それはつまりマスクの着用と手洗いだ。マスク着用が社交マナーの必須アイテムとなっているいま、マスクの色や模様の違いは、新型コロナウイルス禍におけるちょっとした楽しみになっている。それは同時に、さまざまな論議を呼ぶこともある。
 
台湾では現在、マスクの「実名制」販売が行われている。台湾で生産されたマスクは政府によって買い上げられ、政府の一元管理の下で販売されている。国民健康保険証があれば、成人用マスクは14日ごとに9枚、子ども用マスクは10枚購入することができる。選択できるのは成人用マスクか子ども用マスクの2つしかなく、マスクの色や模様などは選ぶことができない。
 
嫌われもののピンク、ジェンダー平等の主役に
ある日、男の子どもを持つ親からこんな声が上がった。「子どもがピンクのマスクをして学校に行きたくないと言っている」というものだった。こうした世論があることを知った中央感染症指揮センター(新型肺炎対策本部に相当。中国語の正式名称は中央流行疫情指揮中心)の指揮官、衛生福利部(日本の厚労省に類似)の陳時中部長(=大臣)を含む男性数名全員は、ある日の定例記者会見でピンクのマスクを着用して登場した。陳時中部長は「ピンクもなかなかいいものだ」と主張。さらに、自分が子どものころは米国のアニメ『ピンク・パンサー』が流行っていて、それを見るのが好きだったと語った。記者会見に出席した感染症専門医も、「マスクの色に男も女もない。とくに、こうした非常事態の中、防護力を発揮できるマスクであれば、それは最も素晴らしい色だ。しかも台湾にはいま十分な供給量のマスクがある。それだけでもとても幸せなことなのだ」と説いた。
 
この記者会見を受け、蔡英文総統も自身のインスタグラムに、「マスクは自分たちを守るものだ。色で人を分けるべきではない。ピンクは決して女子専用の色ではない」と書き込んだ。台湾南部・高雄市の韓国瑜市長はフェイスブックのライブ動画配信で、ピンクのシャツとピンクのマスク姿で登場し、「ピンクに性別などない。男性でも女性でもピンクのマスクを着用することで、奇異の目で見られるのではないかと心配する必要はない」と主張した。
 
ピンクのマスクを拒否した小さな男の子がもたらした問題提起は、台湾で「ジェンダーに対するステレオタイプな見方」についての議論を巻き起こしたのだ。あるネットユーザーは「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕る猫はいい猫だ。だから、マスクがどんな色であろうと、あなたを守ることができるマスクは全て、あなたに最も適したマスクなのだ!」と主張した。
 
単一色ではない台湾のサージカルマスク
こうした議論が起こるのも、台湾で生産されているサージカルマスクが単一色ではないからだ。マスクの色は実にさまざまで、中にはヒョウ柄やストライプのものまであるという。受け取ったマスクの袋を開ける瞬間は、まるで福袋を開けるときのようなサプライズ感がある。
 
マスクにまつわる話題も少なくない。ある人は、黒いマスクを買い当てた。「とてもかっこいい」と思い、すぐにフェイスブックに写真をアップした。すると自分のマスクと交換したいと申し出る人がいた。ある大学教員はヒョウ柄のマスクを買い当てた。「これなら口を開けなくても、人に噛みつくことができる」と笑った。インターネットで「レアマスク」の写真を披露する人も相次ぐ。こうした投稿には「自分も欲しい」、「ラッキーだな」などのコメントが寄せられることが多い。
 
各種のマスクを収集、新型コロナウイルスと戦った時代の記憶に
台湾南部の高雄市役所で働く李さんは、こうした社会現象に興味を持ち、さまざまな色や柄のマスクを集め始めた。李さんは、ほかの人と交換して集めたという色とりどりのマスクを机に広げて見せた。少し特別なマスクをしている人を見かけたら、すかさず近づき、どこで手に入れたのか、自分が持っているマスクと交換してもらえないかと尋ねるのだという。李さんは「この騒ぎが終息したとき、これらのマスクを取り出して眺めたい」と話す。新型コロナウイルスの思い出が、隔離や死といった辛くて悲しいことばかりではなく、人々が一致団結してウイルスと戦ったという温かい記憶もあればと考えている。
 
目立つ色を嫌う高齢者、好む若者
若い人に人気のマスクは、ラベンダーのような紫色や、オレンジ色といった目を引くような色のマスクだ。しかし、一方でこうした目立つ色を敬遠する人もいる。薬剤師の黄さんによると、黄さんが働く薬局の近くには寺廟があり、そこの修行者たちがマスクを買い求めに、薬局にやって来るのだという。しかし、高齢者の中には目立ちすぎる色や特別な柄のマスクを好まない人が多く、もし自分が購入したマスクが「レアマスク」であれば着用しないケースもあるのだという。このため黄さんの薬局では毎日、その日に販売するマスクのサンプルを入口に貼り出すことにした(薬局で販売するマスクは政府から支給されるもので、薬局も販売するマスクの色や柄を選ぶことができない)。その色やデザインが気に入らないのであれば別の日に来ればいい。一方で若い人は、それが自分の好きな色であれば、わざわざ並んで買うほどなので、どちらの問題も円満に解決することができるというわけだ。
 
4つのサイズがある子ども用マスク
成人用マスクと違い、厄介なのが子ども用マスクだ。なぜなら全部で4つサイズがあるのだが、薬局で並んでいる間は、どのサイズのマスクを買い当てることになるか分からない。マスクが入った封筒を開くときの気分は、まるで「福袋」を開くときのようだ。子どもが必要なサイズのマスクが入っているかどうかは運任せだ。幼稚園に通う子どもを持つ郭さんは、「サイズがぴったりではないと子どもが嫌がって着用してくれない。長時間着用するとなるとなおさらのこと。安全に着用することなど不可能だ」と話す。そこで、近所に住むお母さんたちとSNSのグループを立ち上げた。薬局で並んで購入した子ども用マスクが、自分の子どもに必要なサイズではなかった場合、交換希望者を募ることができるというグループだ。新型コロナウイルスに対抗するため、お母さんたちが互いに協力し、子どもたちの健康を守ろうという知恵から生まれた。
 
中にはこんなレアマスクも
マスクや消毒用アルコールなど、いわゆる防疫物資と呼ばれるものに関する情報交換を目的としたフェイスブックグループがある。あるネットユーザーがそこに投稿した写真が大きな反響を呼んだ。それは、彼女が最近薬局で購入したというマスクの写真だった。受け取った袋を開けてビックリしたのは、入っていたのが見たこともない「国旗マスク」だったからだ。
 
中華民国の国旗をプリントしたマスクは国旗の裁断位置がふぞろいで、しかも、あまりに目立ちすぎると思ったため、彼女はすぐにほかのデザインのマスクと交換したいと考えた。そこで、このSNSサイトに「国旗の位置がふぞろいの立体マスクです。大きな子ども、大人のいずれでも着用できます。小さい子どもには大きすぎるでしょう。交換限定!交換限定!交換限定!転売ではありません!」と書き込んだ。
 
この写真が投稿されると、こんなに特殊なデザインのマスクは見たことがないと、多くのネットユーザーから驚きのコメントが寄せられた。「ホントに特別なマスクだ」、「かっこよすぎ!」、「うわあ、羨ましい」、「レアマスクだね」、「こんなに特別なデザインのマスクを受け取った人をほかに知らない」などの書き込みが見られた。マスクの交換を希望する人たちからは「一般の平面マスクと交換できますか?」、「何枚交換できますか」、「まだありますか?大人用マスクと交換して、小学校に通う子どもに使わせます」などのコメントが寄せられた。

マスクの色や柄がこうして話題に上るのも、新型コロナ禍という大変な時期を過ごす台湾の人々のささやかな幸せかもしれない。
 

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