公衆衛生の専門家である国家資格「公衆衛生師」について定めた「公衆衛生師法」が15日の立法院会(=国会本会議)で可決・成立した。こうした法律の制定はアジアで初めてとなる。
「公衆衛生師法」は「公衆衛生師」の受験資格について、大学や大学院で公衆衛生を専攻した卒業生のほか、その他の医療・公衆衛生関連の学部・学科の卒業生でも、公衆衛生の授業を18単位以上履修していれば受験できると定めている。また、突発の緊急事態、あるいは公衆衛生に関わる重大事件が発生した場合、政府は「公衆衛生師」を指名して対応業務に当たらせることができる。
法案の審議に参与した与野党の立法委員(=国会議員)は15日午前、公衆衛生の学者や学生らを招き、記者会見を開催し、アジアで最初となる「公衆衛生師法」が台湾で成立したことを祝った。
記者会見に参加した国立台湾大学公衆衛生学院の詹長権院長は「感動以外の何もない」と感慨深げに語った。同大学公衆衛生学院に入学してから42年、公衆衛生分野の研究者となって32年のキャリアを持つ詹院長は、「人生できょうほどうれしいことはない」として、「公衆衛生師法」の成立を喜んだ。詹院長はまた、「今回のような大規模な感染症の流行は『第三次世界大戦』と同じであり、人類は新型コロナがもたらす新常態(ニュー・ノーマル)を受け入れなくてはならない。『公衆衛生師法』の成立もまた新常態の一つだ」と話した。
この法律では、中華民国(台湾)籍を持つ者は「公衆衛生師」の試験に合格すれば、法律に基づき、「公衆衛生師」の認定書が与えられ、「公衆衛生師」を名乗ることができるとしている。逆に言えば、認定書がなければ「公衆衛生師」を名乗ることはできない。
また、「公衆衛生師」の認定資格がはく奪あるいは停止された場合、あるいは業務上の犯罪行為によって1年以上の有罪が確定し、執行猶予が付かなかった場合、「公衆衛生師」を名乗ることはできない。
「公衆衛生師」はその資格をもって、医療関連機関、ヘルスケア施設、介護施設、公衆衛生師事務所、あるいはその他の主務官庁の認可を受けた機関で働くことができる。
「公衆衛生師」は所定の機関で通算2年以上の実務経験を積んだあと、各地方自治体の窓口において、単独あるいは合同で公衆衛生師事務所を開設し、独立開業の申請をすることができる。独立開業の申請方法、徴収料金の設定、広告内容の制限等については衛生福利部(日本の厚労省に類似)が別途規定する。
「公衆衛生師法」では、「公衆衛生師」の業務範囲が「社区」と呼ばれる地域のコミュニティ単位か、ある施設がある「場域」と呼ばれるフィールド単位を中心とすると定めている。業務内容は「社区」や「場域」の環境・健康リスクの解決、感染経路の調査や感染防止、住民の健康調査、食の安全やリスクに関する調査の立案を含む。
なお、医療関係の資格を同時に有している場合を除き、「公衆衛生師」が業務上、医療行為に従事することは認められない。また、突発の緊急事態、あるいは公衆衛生に関わる重大事件が発生した場合、政府は「公衆衛生師」を指名して対応業務に当たらせることができる。指名された「公衆衛生師」は特段の理由がない限り、これを拒否することができない。さらに、主務官庁が「公衆衛生師」の業務内容やその報告書を検査する際、「公衆衛生師」はこれを拒否してはならない。
「公衆衛生師」はその業務の執行において、職業上の倫理規定を順守しなければならない。関連の懲戒制度に違反した場合、例えば「公衆衛生師」の認定書がないのに「公衆衛生師」を名乗ったり、あるいは「公衆衛生師」が業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏洩したりした場合、3万台湾元以上15万台湾元以下(=約10万日本円以上約53万日本円以下)の罰金を科す。
また、政府が対応を依頼した重大な公衆衛生事件に「公衆衛生師」が参与しない場合、2万台湾元以上10万台湾元以下(=約7.1万日本円以上約18万日本円以下)の罰金を科す。より悪質であると認められた場合は、1か月以上1年以下の停職処分、あるいは免許取り消しとする。
「公衆衛生師法」は公布日より施行される。
「公衆衛生師」が国家資格になったことを受け、国家試験に関する業務を担当する中央省庁の考選部はニュースリリースを発表し、長年の努力が実を結んで「公衆衛生師法」が成立したことは、国のニーズに合致するものだとして歓迎した。「公衆衛生師」の資格試験に関しては、衛生福利部や専門の団体と速やかに協議し、試験科目、試験方法、成績の計算方法、合格基準などの規定草案を作成するとしている。草案は考試院(=公務員の人事に関する最高行政機関)に提出されて審議を受ける。その後、実際に試験が実施され、適格な公衆衛生の人材を選抜する。より完全な防疫システムが台湾に築かれることで、国民全体の健康が守られることになる。