台湾人作家の林奕含(1991~2017年)さんが実話をもとに執筆した小説『房思琪的初恋楽園(邦題:房思琪の初恋の楽園)』の英語版が21日、米国で出版された。文化部が米ニューヨークに設置する出先機関、駐ニューヨーク台北文化センターと米国での出版社HarperVia社は、現地の書店「Yu & Me Books」で最初の記者発表会を開催した。発表会では台湾出身の翻訳者Jenna Tangさんと英語版編集者のAlexa Frankさんの対談も行われ、多くの読者の心に共感を呼び起こした。
小説『房思琪的初恋楽園』は、性、権力、進学至上主義などの問題を取り上げた作品で、性暴力の被害者の心理状態を近距離から描写したものだ。繊細なタッチで心理を描き出しながら鋭い問いを投げかけていることから、その英語版は「台湾の#MeToo運動に最も大きな影響を与えた作品」と称されている。なお、作者の林奕含さんは台湾でこの本が刊行されて間もなく、26歳の若さで自ら命を絶った。
英語版の翻訳を手掛けたのは台湾で生まれ育ったJenna Tangさんだ。長編小説の翻訳はこれが初めて。この小説に、ジェンダー問題を論じるための代表性や重要性を見出したのが翻訳を志したきっかけだ。性暴力問題がより多くの人に直視され、議論されるよう願いを込めた。
Jenna Tangさんは2020年、この作品の翻訳に着手した。2021年、駐ニューヨーク台北文化センターの支持を得て「翻訳指導プロジェクト」に参加。Mike Fu氏の指導を受けながら翻訳を完成させた。こうして完成した英語版は、アメリカの五大出版社の一つ、ハーパーコリンズグループ傘下の出版社、HarperVia社から出版されることが決まった。この作品に大きな衝撃を受けたという編集担当のAlexa Frankさんは、「物語の内容は悲しいものだが、それは台湾だけに発生しうるものではない。さまざまな言語に翻訳されてより多くの読者に届けられるべきだ」と述べた。
Alexa Frankさんは、この作品が出版された2017年の台湾と、英語版が出版された2024年の台湾では社会の状況にどのような違いがあるかと翻訳者のJenna Tangさんに聞いたところ、Jenna Tangさんは2017年は台湾で初めて女性の総統が選出されて間もない頃であり、その後、2019年にはアジアで初めて同性婚が合法化されるなど、ここ数年で台湾の社会を取り巻く環境は大きく変化したと説明。ジェンダー問題に関する議論にも進展が見られたとして、昨年台湾で発生した一連の「#MeToo運動」が、政界、メディア、キャンパス、文化・芸能界などさまざまな分野にまで拡大したことを紹介した。そして、この作品の英語版がより関心を集め、性暴力の被害者が安全・安心な環境で勇気を持って発言できるようになって欲しいと述べた。
駐ニューヨーク台北文化センターとHarperVia社の協力により、Jenna Tangさんは5月21日から6月5日までニューヨーク、シカゴ、セントルイス、ボストンの4都市を訪れ、6回の座談会を開催することになっている。詳しくは駐ニューヨーク台北文化センターの公式サイト(https://tccny.moc.gov.tw/ch/News_Content.aspx?n=731&s=214824)を参照のこと。