2024/05/04

Taiwan Today

政治

台湾の全民健康保険制度、UHCの手本に

2018/04/18
衛生福利部(日本の厚生労働省に類似)の陳時中部長(=大臣、写真)は、台湾で実施されている「全民健康保険」制度を例に、第71回世界保健総会(WHA)への参加を目指す台湾の立場を説明した。(衛生福利部)

中華民国(台湾)衛生福利部
部長 陳時中

 
国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」の下、「世界中の全ての人が生涯を通じて必要なときに、基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられる」ことを意味するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を2030年までに達成することを目指している。世界保健機関(WHO)は近年、各国に対し、医療衛生措置を改善し、この最終目標を達成しようと頻繁に呼びかけている。一方、人口2,300万人を抱える台湾は、世界保健機関(WHO)の会員ではないにも関わらず、1995年にはすでに国民皆保険制度を実現している。
 
台湾で実施されている国民皆保険制度は「全民健康保険」と呼ばれるもので、当時加入率わずか約50%だった労工保険(労保)、公務員保険(公保)、農民保険(農保)を三本柱とする職域型社会保険システムを統合して作られた、国民全員を加入対象とした完全な社会保険制度だ。国民全員が出生した時点で、その年齢、貧富の差、職業に関わらず、平等に受診する権利を享受できるというものである。台湾で働く、あるいは合法的に居留する外国人も、等しく「全民健康保険」の保障を受け、台湾住民と同様の医療サービスを享受することができるようになっている。
 
台湾で実施されている「全民健康保険」は、単一の保険者によって運営され、政府が管理するモデルを採っている。台湾では「全民健康保険」の実施後、男女共に平均余命が伸びた。2016年の女性の平均余命は83.4歳、男性は76.8歳となっており、OECD(経済協力開発機構)加盟国とほぼ同水準だ。しかし、台湾の医療費は大多数の欧米先進諸国より低いのが特徴である。国民1人当たりの保健医療支出を見ると年間1,430米ドル(2016年)で、GDPに占める比重はわずか6.3%(2016年)である。2017年、台湾住民の「全民健康保険」に対する満足度は85.8%に達した。台湾の総保健医療支出に占める行政コストの割合は1%にとどまる。
 
過去20年余りを振り返ると、経済や社会環境の変遷に伴い、台湾の「全民健康保険」制度にも持続可能な運営が求められ、これまでに何度か修正が行われてきた。当初は出来高払い制度が採用されていたが、その後、総額予算支払制度を導入。2003年以降、医療費の年間成長率を当初の12%から、5%以内に引き下げることに成功した。保険料の納付制度も、当初は給与所得から等級別に合わせて徴収する方法を採用していたが、その後、資本利得についても「補充保険料」の算定基礎とするよう改められた。これは「全民健康保険」の財源不足を回避することにつながった。
 
また、情報管理システムはすでにクラウド管理が行われている。支払った医療費などを記載した診療記録は適時、医療機関や国民に通知している。このほか、各医療機関がCTやMRI検査の映像データや検査報告をクラウドにアップロードし、その後の診療に役立てることを奨励している。国民に対しては、クラウドによる「健康存摺(=健康通帳)」サービスを提供。いつでも最近の診療記録を検索できるようになっている。さらには、貧困層とそうでない人々との健康格差をなくすため、中華民国政府は低所得者、中低所得者、失業者などに対して保険料の補助を行っている。また、医療資源が不足している地域では、医療改善計画や統合医療システム(Integrated Delivery System)を推進し、地方における医療の能力と資質を強化している。先住民族を対象とした予防医療サービスについては、補助金の上限を引き上げている。
 
グローバル化が進む中、医療・公衆衛生分野でのさまざまな課題に単独で取り組むことが難しくなってきている。省庁あるいは国境を超えた協力によって、取得可能な限りある資源を適切に活用しなければ、世界中のすべての人に保健医療サービスを普及させるユニバーサル・ヘルスケア・システムを確立することも、世界保健機関(WHO)が目指す「health for all(すべての人に健康を)」という究極の目標を達成することもできないだろう。
 
いかにして「全民健康保険」制度をゼロから作り上げ、医療サービスを管理し、財源を確保しているか。そして経済、社会、環境の変遷に遭遇した際、どのように対応してきたか。我々には豊富な経験がある。とりわけ重要なことは、我々は台湾の医療システムが他国の手本になれると信じているということだ。世界に巨大な保険医療のネットワークを構築するに当たって、台湾は建設的な役目を果たすことができるだろう。そして、台湾が他国の人々と、我々の経験を共有することができる絶好の方法こそが、世界保健機関(WHO)及びその年次総会である世界保健総会(WHA)に参加することなのである。
 
大変残念なことに、政治的干渉により、昨年開催された第70回世界保健総会(WHA)で、台湾はオブザーバーとして参加するための招待を受けることができなかった。世界保健機関(WHO)はその憲章を守らなかったばかりか、世界各地の多くの国々や国際医療団隊から寄せられた台湾支援の声を無視したのである。こうした事実にもかかわらず、台湾はその後も地域及び世界の疾病予防ネットワークの強化に協力し、海外諸国と医療問題の克服に取り組んでいる。
 
こうした背景の下、台湾は専門的且つ実務的な立場から、今年開催される第71回世界保健総会(WHA)に参加することを目指している。そして、疾病予防のシームレスなネットワーク作りという世界保健機関(WHO)の目標を実現すべく、各国と共に取り組みたいと考えている。さらには、国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標3「あらゆる年齢のすべての人々に健康と福祉を」を、2030年までに実現させたいと願っている。
 
我々は世界保健機関(WHO)及び各機関に対して呼びかける。台湾がこれまで世界人類の健康のために行ってきた貢献を評価し、そして台湾の代表者がオブザーバーの身分で世界保健総会(WHA)に出席することの重要性と合法性を認めて欲しい。なぜなら我々は、すべての人の健康を守るために、台湾が必要な支援をすることができると信じているからだ。
 

ランキング

新着