2024/04/29

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第3回「唐奨」の「バイオ医薬賞」、分子標的治療に貢献のあった科学者3名に

2018/06/20
唐奨教育基金会(The Tang Prize Foundation)は19日、第3回「唐奨」の「バイオ医薬賞」を、がんの新たな治療法として注目される分子標的治療を世に知らしめたトニー・ハンター(Tony Hunter)博士(中央)、ブライアン・ドラッカー(Brian J. Druker)博士(左)、ジョン・メンデルソーン(John Mendelsohn)博士(右)に授与することを明らかにした。(唐奨教育基金会サイトより)
台湾の実業家、潤泰グループ(Ruentex Financial Group)の尹衍樑総裁がノーベル賞を参考に創設した「唐奨(TANG PRIZE)」は2014年以降、2年ごとに「持続可能な発展」、「バイオ医薬」、「漢学」、「法治」の4部門で世界中から優れた功績を残した人物を選考して表彰している。その運営母体となる唐奨教育基金会(The Tang Prize Foundation)は18日以降、第3回「唐奨」の各部門の受賞者を順次発表している。19日は「バイオ医薬賞」を、がんの新たな治療法として注目される分子標的治療を世に知らしめたトニー・ハンター(Tony Hunter)博士、ブライアン・ドラッカー(Brian J. Druker)博士、ジョン・メンデルソーン(John Mendelsohn)博士に授与することを明らかにした。
 
「唐奨」受賞者の選考を担当する台湾の最高学術研究機関、中央研究院によると、この3名の貢献は基礎科学の成果を臨床に適用するという最良の手本を示したことにある。がんの新たな治療法として分子標的治療薬を開発し、がんを治療可能な病気にしただけでなく、一部のがんについては完治も可能にしている。
 
トニー・ハンター博士は、チロシン(tyrosine)のリン酸化(チロシンキナーゼ)を最初に発見した。ハンター博士は、Srcがチロシンキナーゼをコードするがん原遺伝子であることを発見し、チロシンキナーゼ阻害薬(Tyrosine kinase inhibitor、略称TKI)の研究という新領域を切り開いた。これはその後の20年間、チロシンキナーゼをコードするがん原遺伝子に関する研究が盛んに行われるきっかけとなった。ハンター博士が特定したチロシンキナーゼの情報伝達のメカニズムを利用して、ブライアン・ドラッカー博士とジョン・メンデルソーン博士が分子標的治療薬を開発し、それぞれ慢性骨髄性白血病、大腸がん、頭頸部がんの治療に応用することに成功した。
 
分子標的治療の運用は20年近くで大きく進展し、現在では白血病、大腸がん、頭頸部がんだけでなく、肺がん、乳がん、肝臓がんにも有効な治療薬が誕生している。
 
西暦2000年になるまで大部分のがん患者に対して、化学物質によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する化学療法が行われてきた。しかし、これはほかに選択肢のない治療法であり、その効果は決して良好なものとは言えなかった。2000年以降は、がん細胞に特殊な遺伝子変異があることが判明すれば分子標的薬を適応し、がん細胞を増殖させる情報伝達経路を打ち切り、これを死滅させることが可能になった。こうして治療の効果が大幅に向上し、臨床医にとっても大きな励みとになった。
 
中央研究院の張文昌院士によると、「唐奨」の「バイオ医薬賞」が対象としているのは、しっかりとした基礎研究を行っているだけでなく、それをもとに優れた医薬品の開発させた科学者。
 
中央研究院の楊泮池院士も、「バイオ医薬賞」の設置趣旨を挙げ、生理学および医学の分野で最も重要な発見を行った人物に与えるノーベル生理学・医学賞とは違い、「『唐奨』は基礎研究において重要な発見を行った上に、それを患者の治療に応用し、人類社会に幸福をもたらした人物を表彰するものだ」として、ノーベル賞との違いを説明した。
 
中央研究院の龔行健院士はさらに、「1つの医薬品を世に送り出すには20年かかると言われている。今年の受賞者は1980年ごろに分子標的治療のメカニズムを発見し、1998年に治療薬を世に送り出している。それまで大量の時間と研究のエネルギーを投じてきた」、「目先のことだけを考えてはならず、急ぎすぎてもならない。一定の時間をかけてこそ、大きな貢献を生み出せるのだ」と説明し、その成果を称えた。
 
唐奨教育基金会の陳振川執行長は、「『バイオ医薬賞』の過去の受賞者の研究領域は、第1回が免疫療法、第2回がゲノム編集、そして第3回となる今回は分子標的治療となった。いずれも非常に人気が高く、継続的に急成長している研究分野である。基礎科学を重視するノーベル賞とは違い、その成果が医療に果たした役割まで含めて評価する『唐奨』を受賞するのはより難しいことだ」として、「唐奨」を受賞することの難しさを強調した。
 
唐奨教育基金会は昨年、ノーベル賞の授賞者が発表された際、自発的にニュースリリースを発表。「唐奨」とノーベル賞は、その本質と意味において「相互補完的な顕著な違い」が存在することを説明した。例えば2017年のノーベル生理学・医学賞はサーカディアン・リズム(体内時計)を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見した科学者3名に授与された。しかし、彼らの研究の成果はまだ新たな医薬品の開発や治療方法を生み出す段階には至っておらず、このため「唐奨」の授賞対象とするのは難しいというのが説明の内容だった。

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