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第3回「唐奨」の「漢学賞」は日本の斯波義信氏と米国のステファン・オーウェン氏に

2018/06/21
第3回「唐奨(TANG PRIZE)」の「漢学賞」は日本の歴史学者、斯波義信氏(左)と米国の学者、ステファン・オーウェン氏(右)が受賞。「漢学賞」が同時に2人に贈られる初めてのケースとなった。(中央社)
台湾の実業家、潤泰グループ(Ruentex Financial Group)の尹衍樑総裁がノーベル賞を参考に創設した「唐奨(TANG PRIZE)」は2014年以降、2年ごとに「持続可能な発展」「バイオ医薬」、「漢学」、「法治」の4部門で世界中から優れた功績を残した人物を選考して表彰している。運営母体である唐奨教育基金会(The Tang Prize Foundation)は20日、第3回「唐奨」の「漢学賞」受賞者を発表した。受賞したのは日本の歴史学者、斯波義信氏と米国の学者、ステファン・オーウェン(Stephen Owen)氏で、「漢学賞」が同時に2人に贈られる初めてのケースとなった。
 
斯波義信氏は日本の大阪大学の名誉教授で、古代中国の宋代の歴史、中国経済史、中国都市史など中国史が専門。「東京文献学派」の代表的な学者であると共に、公共財団法人東洋文庫の理事長も務めた。研究成果を社会に広めるのに尽力し、数多くの著名で読みやすい書籍を出版。同氏の著作である『華僑』は東西の漢学界に深い影響を与えている。
 
ステファン・オーウェン氏は米ハーバード大学東アジア言語・文明学科の教授で、唐代の漢詩研究の権威。杜甫の作品を中心に多くの漢詩を注釈付きで英訳し、西洋の学者たちに東洋の詩の魅力を理解させた。オーウェン氏は唐代の漢詩について、歴史の流れにおける「感情の結晶(structure of feeling)」だと形容、知識分子の生活ぶりを体現するものだと説明している。
 
今年の受賞者は2人だが研究テーマは異なる。選考にあたった中央研究院の黄進興副院長はこれについて、「漢学賞」の選考上、共通のテーマを研究し、いずれも傑出した功績を残している学者を2人以上みつけるのは極めて困難だと指摘。その上で、斯波氏とオーウェン氏はそれぞれの分野の「大家」であり、唐奨教育基金会は同時に2人に賞を贈り、それぞれの世界に対する貢献を表彰することにしたと説明した。
 
一般の人たちにはあまり知られていない斯波氏とオーウェン氏だが、漢学界ではいずれも非常に有名な学者。斯波氏は日本の天皇による引見を重ねて受けている他、昨年は文化勲章も受章した。一方、オーウェン氏は著名な哲学者の故ジョン・ロールズ(John Rawls)氏の跡を継ぐ形で、ハーバード大学における最高クラスの「ジェイムス・ブライアント・コナント・ユニバーシティ・プロフェッサー(James Bryant Conant University Professor, Harvard University)」となっている。
 
オーウェン氏への授賞理由について唐奨教育基金会は、「その学識は深く、中国の古典詩や文章に対する理解が幅広く仔細である。唐代の漢詩に対する研究と翻訳は特に称賛に値する」と評価した。
 
オーウェン氏はユーモラスに自身を「胡人」と称する。「胡人」とは古代の漢族が「異種族」を呼んだ言葉。主には中央ユーラシアの草原で暮らしていた遊牧民のことだという。彼の中国語名は「宇文所安」。これは「宇宙文章、察其所安(文章の宇宙で安寧を探求する)」に通じ、天地と共鳴する広々とした視野を象徴しているという。
 
オーウェン氏の研究で最も知られるのは唐代の漢詩についてのもの。30冊を超える著作は漢詩の初期から最盛期、中期、末期までをカヴァー。ほぼ全ての作品が中国語訳されている。オーウェン氏は、詩歌は単なる「文学」ではなく、歴史の流れにおける「感情の結晶(structure of feeling)」だとしている。「詩」は唐代におけるパソコンのオペレーティングシステムであるWindowsのようで、古典文明につながる最も重要な文字コードでもある。唐代の知識分子、上流階級の様々な活動はほとんどが「詩」を通してやりとりされている。オーウェン氏はこのため、こうした詩は芸術のみならず、当時の政治や文化、社会環境に対する作者の考え方を反映していると指摘、唐代の漢詩研究では狭義の文学としてだけでなく、広義の文化史として捉えるべきだと重ねて主張している。
 
オーウェン氏は特に杜甫の研究に努めた。それは、杜甫が唐代の漢詩文化における最高の作品を代表しているという考えに基づく。オーウェン氏はこれまでに、現存する杜甫の作品約1,400作の翻訳を行い、6巻に及ぶ『杜甫詩』を出版。学術界の研究に提供している。
 
斯波義信氏への授賞理由は、「中国の社会経済史に対する見解が素晴らしく、中国、日本、西洋の長所を一つにまとめている」こと。斯波氏の博士論文で、その後出版された『宋代商業史研究』は今も研究者にとっての必読書だという。従来、中国の都市の発展を理解しようとした学者たちは政治や軍事面を切り口にしたが、斯波氏が経済や社会活動からの分析に取り組んだことは、漢学の世界に大きな衝撃を与えたという。
 
斯波氏はまた、「華僑」に対する研究でも大きな成果をあげた。斯波氏は華僑をいくつかの段階に分けて論述。16世紀からの「商人型」は、季節風に乗って貿易に勤しんだ人たち。それに続く「労働者型」は米国に渡り、鉱山や鉄道敷設で働いた人たち。さらに「華僑型」は中国の本土以外の各地で華人による生活圏を維持した人たち。そして最後の「華裔(海外に渡った華僑の二代目以降)型」となる。斯波氏は、「華僑」と「華裔」の違いについて、「華僑」にはアイデンティティ上の帰属問題があると指摘している。一方、「華裔」は血縁関係に基づけば華人だが、自らの居住地へのアイデンティティも備えている。斯波氏は、東南アジアの一部の国々でこの二つの言葉をあいまいにした場合、問題が生じると指摘している。
 

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