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中央研究院、脳腫瘍治療につながる画期的発見

2019/01/16
中央研究院生物医学科学研究所の謝清河博士を中心とする研究チームは15日に記者会見を開催し、脳腫瘍に関する画期的な治療方法につながる研究成果を発表した。写真は亡き指導教授についての思いを語る謝清河博士。(中央研究院サイトより)
血液脳関門(blood-brain barrier)とは血液中に存在する物質で、脳にとって有害な物質が侵入するのを防ぐ働きをする。しかし、脳腫瘍の患者にとっては、血液によって運ばれる抗がん剤が脳内に取り込まれるのを防ぐことになるため、化学療法を阻む要因になっている。
 
台湾の最高学術研究機関である中央研究院(台湾北部・台北市南港区)生物医学科学研究所の謝清河博士を中心とする研究チームは15日に記者会見を開催し、脳腫瘍の治療につながる画期的な研究の成果を発表した。
 
膠芽腫(こうがしゅ)とは脳腫瘍の一種で、神経膠腫(グリオーマ)の中でも最も悪性の腫瘍とされる。膠芽腫と診断された患者の平均余命は12~15か月と言われる。腫瘍の増大が急速で、極めて高い拡散性と浸潤性を持つ。浸潤性が高く、正常組織との境界が不明瞭であるため、腫瘍の全摘は不可能とされ、化学療法や放射線治療を併用しても5年生存率は5%に満たない。
 
しかも、一般的ながん治療に用いられる化学療法は、この膠芽腫にとってほとんど役に立たない。なぜなら、静脈注射で抗がん剤を投与しても、90%以上が血液脳関門によってブロックされるからだ。このため腫瘍部分に対し、抗がん剤はその効果を発揮することができない。現在、膠芽腫の治療には、血液脳関門を通過しやすいテモゾロミド(emozolomide)という抗がん剤を利用することができる。しかし、この抗がん剤を用いた患者の70%近くに、薬に対する抵抗性ができて薬剤が効かなくなる現象(薬剤耐性)が出ると言われている。
 
謝清河博士の研究チームはもともと、主に幹細胞と心筋細胞の再生に関する研究に取り組んでいた。しかし、2012年に医学雑誌『Science Translational Medicine』で発表する研究を行っている過程で、心臓に血管内皮細胞増殖因子を注射することで、ナノ粒子による血液脳関門の通過を短期的ながら明らかに増やせることを発見した。謝清河博士はこの発見が、脳のMRI検査用造影剤や抗がん剤などの薬物輸送にも応用できるのではないかと考えた。
 
謝清河博士のチームはまず、ラットを使った実験を行った。静脈注射によって極めて少量の血管内皮細胞増殖因子(体重1g当たり1.5ng)を投与すると、45分後に短時間ながら血液脳関門が開き、血液中に循環するナノ粒子や造影剤、抗体、リポソームに内包した抗がん剤などが大脳に届く程度を約3.5倍に増やせることを証明した。また、副作用が出るのを防ぐため、血液脳関門が約2時間後、自動的に閉じることも分かった。この発見は、蘭嶼(台湾の離島)のミニブタを使った実験でも、ブタの脳部に届くMRI検査用造影剤や抗がん剤の量がそれぞれ約2.5倍に増えることが判明した。
 
謝清河博士は、この技術を悪性腫瘍の治療に活用することができないか実験を重ねた。まず、人間の膠芽腫のがん細胞を、遺伝子組み換えで免疫不全にされたラットの脳内に移植した。膠芽腫のがん細胞を移植されたラットは平均40日足らずで亡くなった。
 
そこで、血管内皮細胞増殖因子とリポソームに内包したドキソルビシン(抗がん剤の一種)の両方を投与するという治療方法を用いたところ、抗がん剤が腫瘍に届く量を13.6倍に高めることが出来た。また、ラットの平均余命は65日に延びた。研究チームは次に、血管内皮細胞増殖因子を複数回に分けて注射投与する方法を試みた(つまり、3時間ごとに血液脳関門を1回開かせるという方法)。すると、目立った副作用もなく、抗がん剤の量を増やすこともなく、スピーディーに腫瘍を小さくすることが出来た。しかも、ラットの平均余命は80日に延びた。
 
謝清河博士が米国留学中に論文指導をしてくれたAlec Clowes教授は脳腫瘍をわずらっていた。謝清河博士は指導教授の治療の助けになればと考え、この研究を進めていた。しかし、Alec Clowes教授は3年前にこの世を去った。謝清河博士は今後も臨床試験に取り組み、指導教授に対する感謝の気持ちをバネに、より多くの脳腫瘍患者を救いたいと考えている。
 
この研究は、科技部(日本の文部科学省に類似)、国家衛生研究院(NHRI)、中央研究院が経費助成を行った。研究結果はアメリカ化学会が2018年12月11日に発行した定期刊行物『ACS Nano』に、「Inducing a Transient Increase in Blood Brain Barrier Permeability for Improved Liposomal Drug Therapy of Glioblastoma Multiforme」のタイトルで掲載されている。
 

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