2024/05/06

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中卒のプラントハンターの洪信介さん、ネットで一躍有名に

2019/01/19
洪信介さん(46歳)は、昨年末に「植物獵人(プラントハンター)」として動画で紹介され、ネットで一躍有名になった。中学卒業の学歴しか持たない彼は、屏東県(台湾最南端)にある「辜厳倬雲植物保種中心(KBCC)」で熱帯・亜熱帯植物の遺伝資源の保存という重要な仕事を任されている。写真左はソロモン諸島で一番長い葉を持つランArachnis beccarii var. imthurniiを採取した洪信介さん。写真右はそのランをカラーボールペンと鉛筆だけで描き出した洪信介さんの絵。(洪信介さんフェイスブックより)
洪信介さん(46歳)は、昨年末に「植物獵人(プラントハンター)」として「ナショナルジオグラフィックチャンネル(国家地理頻道)」で紹介され、ネットで一躍有名になった。中学卒業の学歴しか持たない彼は、修士や博士の学位を持つ植物の専門家たちと共に、屏東県(台湾最南端)にある「辜厳倬雲植物保種中心(Dr. Cecilia Koo Botanic Conservation Center, KBCC)」で働く。現在、熱帯・亜熱帯植物の遺伝資源の保存という重要な仕事を任されている。
 
KBCCの執行長を務める国立清華大学(台湾北部・新竹市)生命科学科の李家維教授は、「一般の植物学者が知っている植物の固有名詞なら、洪信介さんはすべて知っている。優れた植物学者とは、植物図鑑に掲載されている固有名詞をすべて理解した上で、その詳細をすべて説明できるものだ。『阿介』(洪信介さんのニックネーム)はその能力を十分に備えている」と絶賛する。李家維執行長によると、KBCCにはこの2か月間、世界各地から「阿介」さんについて問い合わせるメールが続々届いている。
 
子どものころから木に登ったり、植物を採取したり、絵を描いたりするのが大好きだった。17歳のころには、家計を助けるために山に入って蘭の花を採取していた。もともとは蘭を業者に売ろうとしていたが、植物の魅力にはまり、売るのが惜しくなった。自分で植物園を作り、それを維持するために英語で書かれた植物図鑑を購入し、植物について独学で学び始めた。

 KBCCが保存する小蘭嶼の絶滅危惧種、桃紅蝴蝶蘭(Phalaenopsis equestris)は洪信介さんが数年前に植物学者と共に採取に成功したものだ。当時、洪信介さんは島に残る7株のうち、1株を持ち帰り繁殖に成功。その後、これをKBCCに寄贈した。
 
雅美萬代蘭(Vanda lamellata)や桃紅蝴蝶蘭など、極めて珍しい植物の採取に成功し、洪信介さんは徐々に植物界でも知られる存在になった。国内外の学術チームから声を掛けられ、プラントハンターとしての仕事を任されるようになった。その前後20年間は、「1年間の約100日は山にいる生活」を送っていた。KBCCで働くことになり、自分で植えることなく、たくさんの植物を目にすることが出来るのは本当にうれしいと語る。KBCCに入ってからは、自分の植物園で収集していた植物も、すべてKBCCに寄付した。
 
金物を作る仕事、建築現場で働く主任などを経験してきた洪信介さん。植物に対する愛は、植物に対する深い関心から生まれる。洪信介さんは優れた画家でもあり、採取した植物をしばしばボールペンで丁寧に描く。その「植物解剖図」は、李家維執行長も「傑作だ」、「素晴らしすぎて、それを超えるのは難しい」、「カメラでも捉えることができない歴史を描き出す」と舌を巻くほどだ。
 
李家維執行長が洪信介さんの活躍ぶりを目にして、KBCCで働かないかと声を掛けたのは2017年4月のことだった。洪信介さんは「目を輝かせて」、これを受け入れた。しかし、洪信介さんは中学卒業の学歴しか持たない。科技部(日本の文部科学省に類似)のプロジェクトを利用しても、1か月に2万台湾元(約7万日本円)と少し程度の賃金しか出すことが出来なかった。このため、1か月に2週間勤務すればそれでいいと洪信介さんに伝えた。しかし、洪信介さんは毎日出勤した。現在は正規雇用の職員として働く。
 
KBCCは現在、洪信介さんに非常に重要な任務を与えている。それは、高い樹に上ることが出来る洪信介さんの度胸、忍耐力、気力、努力、どれを取っても一般の植物専門家にはできないことだからだ。しかも、彼の植物に対する専門知識は、一般の植物専門家に決して引けを取らない。
 
例えばKBCCがソロモン諸島で実施した植物資源調査は、多額の資金が投じられ、近年まれに見る規模の多国籍植物資源調査活動であった。しかし、最初の1年目、李家維執行長はその成果に不満だった。何が問題なのかと植物学者に尋ねたところ、樹木が高すぎて、高い樹の上にある植物を採取することが出来ないとの答えが返ってきた。そこで、李家維執行長と植物学者たちは高さ30メートルの木の下で、この地域に住む先住民族と交渉をした。それは、この樹に上って植物を採取することができたら、特別な手当てを与えるというものだった。しかし、先住民族たちは皆、頭を縦に振らない。それを横目に、洪信介さんはするすると樹に上っていった。そして拡声器を使って、「先生、僕はもう樹の上にいます」と李家維執行長に知らせた。
 
洪信介さんは、自分が知らない、植物図鑑にも掲載されていない植物こそ、自分が採取すべきものだと意気込む。植物にも魂があると信じているから、自分が足を停めたり、手を伸ばして採取したりできる場所で、しばしば探していた植物が見つかることがあるのだと話す。
 
44歳になって研究助理(=アシスタント)というポストを手に入れた。これは、彼にとって生まれて初めての定職だった。植物を生きたままKBCCに持ち帰るため、採取後、直ちに必要な措置を施し、記録する。40キログラムの荷物を持って、10数日間も山に籠ることもある。毎日忙しく、寝るのは零時をすぎてからだ。
 
これまでに採取した植物標本は2万点余りに達する。驚くべき記憶力と、子どものころから好きだった絵を描くという趣味に頼るところが大きい。仕事以外でも、植物の絵を描くことがある。さまざまな色のボールペンと鉛筆だけで、専門の植物図鑑にも負けないような絵を描き出す。ソロモン諸島で採取した、一番長い葉を持つラン、Arachnis beccarii var. imthurnii(中国語は英聖龍爪蘭)の絵は、帰国後、2週間かけて完成させた。正確に再現した細部は、「教授ですら覚えていなかった」という。
 

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