2024/05/07

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台湾大学教授、東南アジア2700年間の降水記録を分析

2019/08/22
国立台湾大学地質系(=地質学科)の沈川洲教授(右)が主導する国際研究チームの研究成果が、8月12日発行の科学専門誌『米国科学アカデミー紀要』に掲載された。この研究は科技部が実施する「卓越領航計画」の研究費助成を受けて行なわれたもの。(科技部サイトより)
世界の総人口の40%は低緯度の熱帯地域に集まっている。ここは地球上における最も重要な降雨帯で、「熱帯収束帯(ITCZ)」と呼ばれている。この地域における総雨量は地球上の3分の1を占める。台湾はITCZの北端に位置する。ITCZは同時に、地球上で最も重要な生態圏でもあり、極めて多種多様な生物が生息している。まさに地球にとって、エネルギーと水の供給源となっている。その水の循環と地理的位置に生じるわずかな変化は、しばしば地球上の生物圏や文明に大きな災いをもたらしてきた。
 
国立台湾大学地質系(=地質学科)の沈川洲教授(同大学理学院全球変遷研究中心の主任を兼務)は、科技部(日本の文部科学省に類似)の長期にわたる協力を得て、科技部が実施する「卓越領航計画(=自然科学を対象とした研究費助成事業)」に参加し、国際研究チームによる研究を行っている。その研究の成果が8月12日発行の科学専門誌『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)』に掲載された。
 
沈川洲教授が率いる研究チームは2010年7月、タイ南部にある鍾乳洞「Klang Cave」で、当局の許可を得て、貴重な石筍(せきじゅん)の標本を採取した。ウラン-トリウム法と呼ばれる放射年代測定法と炭酸カルシウムの酸素同位体比(アイソトープ)などを用いて、そのうち3本の石筍の生成年代を調べた。また、この観測と、近代的測定器による降雨記録、それに過去100年間のこの地域及び世界的な観測データを分析した結果、研究チームは10年の歳月をかけて、東南アジア地域における過去2700年間の正確な降雨記録を再現することに成功した。
 
研究結果によると、過去2000年余り、この地域における降雨量は長期的に見て減少傾向にある。これはまた、東南アジアと赤道以北のその他の熱帯地域、例えば中南米やカリブ海の古い水循環の記録と一致している。しかし、赤道以南の熱帯地域、例えばアフリカ東部、西太平洋、太平洋東部、南米地域では雨量が増加傾向にあり、前者とはちょうど正反対であることが分かった。
 
タイで採取した石筍の記録からは、数十年から100年間で発生する、東南アジアにおける雨期傾向と乾期傾向の交代時期に関する情報も明らかになった。そのうち、乾燥傾向が最も明らかだったのは西暦950年から1150年の間と、1200年から1350年の間、それに1910年以降であった。一方で西暦400年から800年までと1400年から1800年までは相対的に湿潤傾向にあった。研究チームはまた、14世紀から15世紀初旬までの数十年間は極端に雨が多かったことを発見した。この時期は、カンボジアのクメール王朝時期に発生した大洪水や排水システムの崩壊と一致しており、15世紀ごろにクメール王朝を衰退させるに至った一因が気候変動にあった可能性も考えられる。
 
この研究のもう一つの大きな発見は、過去2000年間でITCZが南北に移動しているということである。1000年単位で見ると、南半球の温帯地域の温度は、北半球に比べてやや高くなっており、これが長期的に見ると、インド洋や太平洋にある降雨帯を南方に移動させている。
 
100年単位で見ると、現在の北半球の熱帯地域で見られる乾期傾向は、11~12世紀や15~16世紀のものと似ている。降雨帯が南方へ移動したことにより、自然界の水の循環に変化が生じているかのようである。このため、現在北半球で見られる乾期傾向が、地球温暖化の影響によるものかどうかについては、さらなる因果関係の究明が待たれる。しかし、北半球で乾燥傾向となり、南半球で雨量が多くなるという傾向が変わらなければ、熱帯地域の生態系は降雨帯の移動に伴って変化するだろう。また、これは各国の水資源の分配にも影響する可能性があるという。
 
この研究は国立台湾大学地質系(=地質学科)の沈川洲教授と、同大学のLudvig Löwemark教授が主導して行った。論文全文はこちらで読むことができる。
 

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