2024/05/07

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出産後の子宮縫合止血法、台湾大学医師が編み出した「王蟲法」

2019/09/12
国立台湾大学医学院附設医院産婦人科の医療チームは、2012年に編み出した独自の子宮縫合止血法「王蟲(ナウシカ)法」について説明した。縫合した子宮の形が日本のアニメ「風の谷のナウシカ」に登場する「王蟲(オーム)」(写真右下)にそっくりなことからこの名を付けた。写真左から2人目が施景中医師。(国立台湾大学医学院サイト、英obgyn.onlinelibrary.wiley.comより)
出産後に大出血が起きると、子宮を失ったり、多臓器不全で死に至ったりすることがある。世界保健機関(WHO)の統計によると、世界では1分間に妊婦1人が出産のために命を落としている。また、出産後の大出血が原因で亡くなる妊婦は4分間に1人のペースで発生している。国立台湾大学医学院附設医院(=大学附属病院)産婦人科は、独自に開発した「王蟲法」と呼ばれる縫合止血法で出産後の出血を止め、子宮摘出を回避している。この新たな縫合止血法は海外でも発表しており、これを採用する医師たちが世界中の妊婦を救っている。
 
出産後の大出血への対処法としては子宮の圧迫や、子宮腔内にガーゼを充填するなどの方法や、薬物治療などがある。それでも十分な効果が得られない場合、放射線科の医師にお願いして子宮動脈塞栓術を施し、子宮への血流を減らす措置を講じることもある。しかし、こうした施術能力を有する医療機関はまだ少数だ。子宮の圧迫縫合法によって止血を試みることもできるが、出血が止まらない場合は、子宮摘出を考慮せざるを得ない。
 
癒着胎盤により、出産後の大量出血で死亡する率は7%に達する。このケースでは、子宮摘出を止血の優先手段と考えるのが世界では一般的だ。しかし、子宮の摘出は身体に与える影響が大きい。例えば、より広範囲の傷口によって出血が発生したり、膀胱や輸卵管を傷つけたりするリスクがある。また、女性にとって子宮摘出は、生殖能力を永遠に失うことを意味しており、心理方面に与える傷も大きい。
 
そこで国立台湾大学医学院附設医院産婦人科の施景中医師は2012年、独自の子宮縫合止血法を編み出し、これを「王蟲法」と名付けた。英語では「ナウシカ(Nausicaa)」と呼ぶ。これは、縫合した子宮の形が日本のアニメ「風の谷のナウシカ」に登場する「王蟲(オーム)」にそっくりだからだ。
 
「王蟲法」を使えば、大部分の状況において、出産後の大出血(特に困難とされる癒着胎盤による出血)を効果的に止めることができる。また、こうした女性たちの子宮や生殖能力を守ると同時に、膀胱や輸卵管を傷つけるリスクを低減できる。すでに100人以上にこの方法を実施してきたが、良好な効果が得られ、合併症も極めて少ない。この縫合法を使えば、次の妊娠に影響を与えることもないため、施術を受けた患者のうち、すでに5人が次の妊娠、出産に成功している。
 
施医師はあるとき、癒着胎盤の疑いのある妊婦の帝王切開を行うことになった。施医師は開腹後、状況が深刻であることを察知した。しかし、この妊婦にとっては最初の出産であり、ここで子宮を摘出して止血すると、女性の生殖能力を奪ってしまい、今後のトラブルにもなりかねないと考えた。施医師は緊迫した状況の中で、この新たな縫合法を思いつき、そして止血に成功した。これが「王蟲法」の誕生につながった。
 
現在世界各地で使われている子宮縫合法には、B-lynch法とSquare suture法の2種類がある。B-lynch法は一本の線で、子宮をまるごとしばってしまうというものだが、張力に限界があるため、十分な効果を得ることができない。また、縫合法が複雑であるため、緊迫した状況の中では、医師が縫い方を忘れてしまうという可能性もある。一方、Square suture法は縫い方が細かいが、子宮の前壁と後壁を縫合する必要があるため、子宮内の残留物を自然排出できず、子宮が癒着や壊死するリスクを増やしてしまう可能性がある。
 
台湾大学医学院附設医院の医療チームはこれまで何度も、海外で「王蟲法」とその成果について発表してきた。2018年8月に発行されたイギリスの産婦人科系医学ジャーナルでも発表された。そこには縫合の方法も記載されており、これを採用した産婦人科医によって多くの妊婦が救われている。
 
この縫合法の最大のメリットは、医師が糸結び(結紮)さえできれば良く、技術的なハードルが低いことだと施医師は指摘する。施医師は、この縫合法をより多くの医師に普及させることにより、産婦人科医が前置胎盤や癒着胎盤などのリスクの高いお産に遭遇した際、子宮摘出という方法以外の選択肢を持てるようになり、妊婦たちの医療と生活の品質を高められればと期待を寄せている。
 

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