台湾の有名な男性歌手、費玉清さんが7日夜、台湾北部・台北市内の多目的体育館・台北アリーナで46年にわたる歌手人生にピリオドを打った。費玉清さんの代表的な作品の1つで、台湾では誰もが知る『晩安曲』（おやすみの歌）は二度と聴くことが出来なくなった。費玉清さんは歌手人生を通して中国語の歌謡界で活躍し、ファンたちに数多くの思い出を残した。
費玉清さんの本名は張彦亭。1955年に台北市内で生まれた。兄の張菲さんもバラエティ番組の司会などで有名な芸能人である。費玉清さんの歌手人生は中国テレビ（中国電視）が放送していたのど自慢番組の「星対星」から始まった。この番組の決勝戦で4位となった費玉清さんは新人歌手としてデビュー。兵役を終えると最初のアルバムを発表した。デビュー当時、政府は「体制に批判的」、「退廃的」、「中共の宣伝」、「荒唐無稽」、「過度に悲観的」などと判断する歌曲を排除するため審査制度を設け、一方で「健康的」で「清潔」な歌曲の普及を図る「浄化歌曲運動」を推進していた。
こうした「健康的」で「清潔」、「前向き」な歌に多くの歌手が興味を示さない中、新人だった費玉清さんはこうした任務を引き受けることとなった。費玉清さんの清々しく正統派のイメージは、彼を「愛国歌曲」の担い手として唯一無二の人選に押し上げた。民国60年（1971年）から70年（1981年）代、費玉清さんは『中華民国頌』、『送你一把泥土』、『国恩家慶』、『美斯楽』、『夢駝鈴』など次々にヒットを飛ばした。特に『中華民国頌』は今も様々な場面で歌われ、演奏されている。
そして最も知られている曲は、当時中国テレビの1日の放送が終了する前に放送された『晩安曲』。この歌は台湾で最も広く歌われている曲だといえ、テレビの放送終了前のみならず、商店の閉店前、軍隊での就寝前など様々なところで流され、同じ時間帯にあちこちで耳にする楽曲となった。『中華民国頌』と並んで、台湾の歌謡界で最も長く人気の衰えない名曲である。
1990年代に入ると、費玉清さんは兄の張菲さんと共に台湾テレビ（台湾電視）のバラエティ番組「龍兄虎弟」で司会を務めるようになった。当時各局のバラエティ番組がしのぎを削っていた週末の時間帯ながら、見事な司会ぶりを見せた費玉清さんはさらに知名度を上げて大スターとなっていった。
また、公式な場所での費玉清さんは身だしなみを大変重視しており、これもファンたちに深い印象を残している。ステージでは常に背広にネクタイ姿かあるいは中山装（中華民国建国の父、孫文博士の服装）で、デビューからこれをずっと守り続けた。このため「芸能界の公務員」などと呼ばれることもあった。
2006年には新世代の人気男性シンガーソングライター、ジェイ・チョウ（周杰倫）と『千里之外』をデュエット。新たな市場を切り開き、若者たちにもファン層を広げた。
費玉清
本名：張彦亭
出生：1955年7月17日
あだ名：小哥
1973年にデビューしてからこれまでに45枚のアルバムをリリース。台湾のエミー賞とされるゴールデンベル・アワード（金鐘奨）には男性歌手やバラエティ番組の司会者として6回ノミネートされ、4回は受賞（男性歌手で1回、司会者として3回）した。また、台湾のグラミー賞とされるゴールデンメロディ･アワード（金曲奨）には最優秀男性シンガー、最優秀国語（北京語）男性シンガー、最優秀国語アルバムで6回ノミネートされ、『晩安曲』で最優秀国語アルバム賞を受賞している。
1972年8月 中国テレビののど自慢番組「星対星」で6段階のうち2段階までのチャンピオンを獲得。
1973年3月 「星対星」決勝戦で4位となり、正式デビュー決まる。
1984年 第19回ゴールデンベル・アワードの男性シンガー賞を受賞。この時から「金鐘歌王」と呼ばれるようになる。
1993年 兄の張菲と共に台湾テレビのバラエティ番組「龍兄虎弟」で司会をスタート。優れた司会ぶりと、ほかの歌手の物真似が得意だったことから「九官鳥」というニックネームも。
1995年 「龍兄虎弟」で張菲と共に第30回ゴールデンベル・アワードの最優秀バラエティ番組司会賞を獲得。
1996年 『晩安曲』で第7回ゴールデンメロディ・アワードの最優秀アルバム賞受賞
1997年 司会を務めたテレビ番組「金嗓金賞」で第32回ゴールデンベル･アワードの最優秀バラエティ番組司会賞を獲得。
2005年 テレビ番組「費玉清的清音楽」で第40回ゴールデンベル・アワード歌唱バラエティ番組司会賞を受賞。
2006年 ジェイ・チョウと歌った『千里之外』が大ヒット。中国語歌謡界で広く歌われるようになる。
2019年11月7日 台北アリーナで「お別れコンサート」ツアーの最終ステージを務め、ファンたちに別れと正式な引退を告げた。