2024/04/30

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屏東県の文化と歴史の紹介に尽力、作家・郭漢辰氏が55歳で死去

2020/03/27
屏東県出身の著名な作家、郭漢辰さん(写真)が25日に肝臓がんで死去した。台湾南部の文化と歴史を発掘・保存し、それを紹介していくことに尽力。55歳と言う若さだった。(中央社)
台湾南部・屏東県出身の著名な作家、郭漢辰さんが25日早朝に肝臓がんで死去した。享年55歳。記者として10年あまりのキャリアを持つ郭さんは高校生だったときから投稿を開始したという。そしてかつての大手日刊紙「民生報」が廃刊すると作家に転身、第1回大武山文学奨(賞)のエッセイ部門で優勝し、広く知られるようになった。作品は多種多様で、当初の詩から後期にはエッセイや小説へとジャンルを広げ、創作には様々な文体を取り入れた。特にふるさとである屏東県の風景や地形の記録が有名で、台湾南部における「中生代」(40歳から64歳程度)の重要な作家と位置づけられていた。
 
郭漢辰さんは国立成功大学(台湾南部・台南市)で台湾文学の修士課程を学んでいたとき、台湾文学の「長老」葉石涛氏や陳冠学氏らの教えを受けた。小説家の平路氏は郭漢辰さんの小説『王爺』について、文章が新しく鋭敏でキャラクターが生き生きと描かれていると絶賛している。また、小説『黎明』は葉石涛氏によって特賞に選ばれた。
 
近年は文学の普及活動に全力で取り組んでおり、「2018年屏東大武山文学キャンプ」と「2017-2018全国青少年文学キャンプ」を主催、文学をキャンパスに広める活動を推進してきた。また、屏東県の「勝利星村創意生活園区」(V.I.P Zone)にある張暁風女史の旧居を借りて小規模文学館兼独立系の書店である「永勝5号」に改造。定期的に文学講座を開催し、文学を地元に根付かせようと努力していた。「勝利星村創意生活園区」は、1949年以降、当時の国民政府と共に中国大陸から台湾に渡ってきた人たちが暮らした集落(「眷村」と呼ぶ)の「勝利新村」を保存したエリアである。
 
郭漢辰さんは先週体調を崩して入院し、25日の早朝、眠ったまま帰らぬ人となった。妻の翁禎霞さんは25日午前にフェイスブックで夫の死を伝え、24日にはまだ病室で原稿のことを気にかけていたことを明らかにした。最後には郭さんが口述して妻がそれを代わりに打ち込む形だったという。
 
翁さんによれば、郭さんが最期に残した文章は、「どうしたのかわからないが世界が止まってしまった。人々は旅の禁止、恐怖、物資の買占めに忙しく、世界が止まってしまった。・・・私の世界も止まってしまった」、「その夜、私は果てしない暗闇の中を歩いていた。途切れ途切れの記憶はあるが、その多くは果てしない場所で歩いている姿だ。険しい崖に沿って登っていく。その道がやや危険なことはわかっていた・・・(未完)」というもので、翁さんはこの文章について、「彼が綴ったとおり、彼の世界が本当に止まってしまった」と驚きをもって語っている。
 
郭漢辰さんは1965年、屏東県で生まれた。世界新聞専科学校編集取材学科を卒業し、国立成功大学で台湾文学修士を取得。日刊紙の「台湾時報」と「民生報」で屏東県での現地駐在記者を10年以上務めた。その後、文筆家に転身。屏東県の文学団体「阿緱文学会」の執行長でもあった。
 
同じく作家の劉克襄さんは郭さんとの交流を紹介している。2018年に郭さんの誘いでイベントに参加した際、劉さんは在来線・台湾鉄道の南廻線について話した。それは、昔ながらのレトロな列車である「藍皮火車」(青い肌の列車=車体が青く塗られているため)が南廻線だけに残っていること、そしてその車両は窓を開けて壮麗な山と海の景色を楽しめることから、劉さんにとっては乗るだけで悩みごとを忘れてしまう「悩みを解決する列車」であることだった。郭さんはこうした言葉を覚えていて、昨年屏東県で「悩みを解決する列車ツアー及び展示会」を開くにあたって劉さんをコースを案内するガイドに指名した。イベントは大成功、「藍皮列車」は一気に注目を集め、屏東県の特色を改めて広く知らしめることになった。
 
劉克襄さんは郭さんについて、南部の作家としての特性を体現したと評価。郭さんは地元に密着し、末端に入り込んで研究するのに時間と労力を惜しまなかった。地元文化を絶えず掘り起こそうとする郭さんのこうした精神は非常に貴重であり、都市型の作家が忘れがちな部分なのだという。またここ数年、郭さんは体調を崩しがちだったとは言え、依然として高屏渓以南の文化や歴史の保存に尽力していたほか、文物の紹介にも重要な役割を果たしてきた。郭さんが苦心して得たリソースはいずれも屏東県の文化と文学のために費やされた。
 
郭漢辰さんについて最も感心することとして劉さんは、地方の文化や歴史の紹介に努めたこと以外に、郭さんが一世代上の作家たちに対する深い敬意を、文化に関心を寄せる上で体現したことだと指摘する。例えば「勝利新村」の永勝巷5号はベテランエッセイストの張暁風女史の旧居だったが、郭さんは作家名義でこれを借り受けると「作家の家」及び小規模文学館と位置づけることで、「眷村」特有の「眷村文学」の精神の発揚につなげたのである。
 
劉さんによれば、こうした実績は郭漢辰さんが地元文化の系譜を探ろうとした取り組みが言わば「灯台守の一生」だったことを示す。劉さんは、郭さんが守った灯台はまさに台湾本島最南端に位置する鵝鑾鼻灯台と同様に屏東県を永遠に照らし続けるのだと語っている。
 

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