2024/04/28

Taiwan Today

政治

新型コロナ対策本部、開設から満100日迎える

2020/04/29
中央感染症指揮センター(正式名称は厳重特殊伝染性肺炎中央流行疫情指揮中心)が28日、開設から満100日を迎えた。台湾における新型コロナウイルスの感染者は累計429人、死者6人となっている。また、29日までの時点で、台湾では4日連続で新型コロナウイルスの新規感染者が出ていない。写真は28日の記者会見で、台湾の新型コロナウイルス感染拡大の現状について語る陳時中指揮官。(中央社)
新型コロナウイルスの対策本部に相当する中央感染症指揮センター(正式名称は厳重特殊伝染性肺炎中央流行疫情指揮中心)が台湾に開設されたのは1月20日のこと。それから昨日(4月28日)で満100日を迎えた。台湾における新型コロナウイルスの感染者は累計429人、死者6人となっている。また、29日までの時点で、台湾では4日連続で新型コロナウイルスの新規感染者が出ていない。全世界で300万人近い感染者が出ている中、台湾の新型コロナウイルス封じ込めは一定の成果を挙げていると言える。
 
中央感染症指揮センターの指揮官を務めるのは、インターネットなどで「阿中部長」と親しみを込めて呼ばれている衛生福利部(日本の厚労省に類似)の陳時中部長(=大臣)だ。陳時中指揮官は「感染症との戦いは、生理戦であり心理戦でもある」と語る。「生理戦」はさまざまな感染症対策と医療のエネルギーを集約することで対応することができるが、「心理戦」は国民を安心させ、恐怖を取り除くことが必要だと指摘する。
 
陳指揮官によると、感染拡大の緊張感が高まっているときは、専門家が一切を仕切ることで問題なく乗り越えることができる。専門家が台湾のさまざまな感染症対策のエネルギーを集約すれば、問題なく対処することができるからだ。しかし、感染拡大が落ち着いたころ、突発的な事件が発生した場合は、「政治家の舌戦によって、専門性が隅に追いやられてしまう」可能性がある。対立は社会の調和を乱し、感染症に対する防衛システムと心理状態に抜け穴を作る。すると防衛線は、一つが倒れると全てが次々と倒れるドミノのように壊れていく。しかし幸い、台湾では現在のところ、そのような状況は発生していない。
 
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって間もなく、中央感染症指揮センターは一貫して早めの対策を講じてきた。海外での感染拡大が台湾に波及しないよう、空港での水際検疫を強化し、海外からの渡航者の入国制限を設けた。本来ならばどこでも購入できるサージカルマスクを防疫物資とみなし、指定された薬局などで並ばなければ購入できないようにした。2月上旬、中国・武漢に残された台湾人をチャーター機で帰還させることに成功したときは、帰還者の中に新型コロナウイルスの感染者が含まれており、緊張が走った。欧米諸国で感染が爆発的に広まると、海外から台湾に持ち込まれる感染例も急増した。4月に入り、海外から落ち込まれる感染例が減ってきたと思ったとき、今度は軍艦でのクラスタ(集団感染)が発生した。
 
陳指揮官は、中央感染症指揮センターにおける自分の役割を、「専門家の話を聞く」ことであり、それを分かりやすい言葉に置き換えて国民に伝え、感染症予防につながる実現可能で有効な手立てを打つことだと考えている。長く民間の組織で働き、政策の推進に協力してきた陳指揮官にとって、意思疎通とコーディネートはお手のものだ。「有求有応(=求められれば、必ず応じること)」という四字熟語をもじてって、友人から「有応公(=民間の御霊信仰の神様を指す)」と呼ばれるのはこのためだ。
 
新型コロナウイルス禍の混乱の中、陳指揮官はどんなときも「自ら進んで協調に乗り出す。自ら決断を下す。どんなに難しい決定でも、1~2時間で答えを出す」という姿勢を崩さなかった。例えば3月に入り、欧州諸国では感染が予想以上のスピードで拡大した。ある程度は心の準備をしていたとはいえ、感染者がこれほどまでに急増するとは思っておらず、急いで入国制限の是非を判断する必要に迫られた。空港など現場で働く人々は、どの国からの渡航者の入国を制限するかなどを1時間前になって知らされることがしばしばで、急な対応に追われた。
 
「しかし、いま振り返ると、我々の決断は正しかった」と陳指揮官は話す。もし、あの決断が数日でも遅かったならば、台湾の状況は全く変わっていたはずだ。陳指揮官はこれまでも一貫して、「やった方がいいかどうか」で動いてきた。「できればやった方がいい」ことを追求し、「絶対にこうでなければならない」とは考えないようにしてきた。そうすれば、実際の感染拡大の状況を見た上で、足りないところを見直すという柔軟な道を残すことができるからだ。
 
中央感染症指揮センターは開設以来、土日も休むことなく毎日定例記者会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大状況を国民に伝えてきた。いまではすっかり、毎日定時になるとチャンネルを合わせる「連続ドラマ」のようになっている。インターネットのライブ配信だけでも毎日10万人以上が同時に視聴している。定例記者会見を見て最新状況を把握することは、台湾の人々にとってもはや日常生活の一部になっている。
 
テレビでも定例記者会見の視聴率は高く、記者会見の常連メンバーと言えば、いまや知らない人がいないほどだ。常連メンバーのうち、衛生福利部疾病管制署(=台湾CDC)」の周志浩署長と荘人祥報道官のコンビは、台湾のお笑い芸人コンビ「浩角翔起」(浩子と阿翔)になぞらえて、「CDCの浩角翔起」と呼ばれている(荘人祥報道官の「祥」と「翔」の発音が同じであるため)。また、荘人祥報道官は「祥祥」、中央感染症指揮センター専門家諮問チームの招集人を務める張上淳医師は「淳淳」の愛称で親しまれており、ライブ配信のコメント欄を見てもネットユーザーたちから愛されていることが分かる。
 
荘人祥報道官は、インターネット上での意外な人気に驚きながらも、「喜ぶのは少しだけで十分」と冷静に話す。自分の人気の理由については、しゃべりがうまくないため、すぐに話を終わらせてしまう。だから「句点王(話題が続かず、すぐに話題を終わらせてしまう人を指す)」と呼ばれ、それが記者会見の特徴になっているからだろうと自己分析する。
 
荘人祥報道官の専門は医療ビッグデータの分析だ。米コロンビア大学で博士号を取得している。ビッグデータを公共衛生のモニタリングに活用することが得意で、国民健康保険証に記録された受診データの中から感染症に関するさまざまな手がかりを探し出して整理し、今後のすう勢を判断することができる。疾病管制署(CDC)の職員たちからは「情報頭脳」と呼ばれている。
 
「三採陰(=感染者の退院の条件としている、3回の検体検査で陰性が続けて出ること)」や「復陽(=陽性患者が一度陰性になり、再び陽性に戻ること)」などの専門用語の説明が必要なとき、簡易検査はどのように行うのか、抗体検査で陽性が出れば問題がないのか、といった専門的な質問が出たとき、マイクを握るのは張上淳医師だ。インターネット上で親しみを込めて「張教授」と呼ばれる彼が、丁寧に「授業」してくれる。
 
張上淳医師は17年前、台湾でSARSがまん延したとき以来の感染症対策のベテランだ。衛生福利部の前身である衛生署の副署長を務めたこともあり、感染管理と公衆衛生政策の専門家でもある。
 
疾病管制署の周志浩署長は、17年前のSARSのとき台北県(現在の新北市)衛生局で局長を務めていた。SARS指定病院を設立させた経験を持つ。17年後のいま、疾病管制署の署長として、当時の経験を活かしながら新型コロナウイルスと闘っている。
 
いまやすっかり「みんなのアイドル」になった陳指揮官は、記者会見でたびたび見せる優しい言葉も人気の秘密だ。「魔女狩りのようなことはしないように」などと呼びかける発言の数々は、インターネットで何度となく「名言」としてシェアされてきた。だからこそ、彼が指揮官を務める中央感染症指揮センターが強硬な姿勢を打ち出し、違反者に厳しい罰則を与えるようなことがあっても、国民の多くはそれに従い、支持しているのである。
 
陳指揮官が衛生福利部の部長に就任したのは2017年2月のことだった。部長として「長期介護十カ年計画第2版(2.0)」を策定したことは、自分の人生の成績表に記録できる成果だと自負している。もともと、今年の旧正月はのんびり休みたいと考えていた。しかし、新型コロナウイルスの発生により、実際には2019年12月31日から120日間、全く休みのない日々を送っている。
 
「社会にとって有用な人間でありたい」と願い続けていた陳指揮官。「有用な人間」になるため、これまで周囲にも厳しくしてきた。しかし、66歳になったいまは、慈悲深い老人となり、慈悲の心と、寄り添う気持ちで相手と接したいと考えるようになったという。
 
とはいえ、陳指揮官を含め、中央感染症指揮センターの核心メンバーはもう120日間も休みを取っていない。これについて聞かれた陳指揮官は、「皆が疲れているのは知っている。しかし、国が我々を必要としているとき、我々はその正義感に従い、前進あるのみだ」、「しかも自分の生涯において、国家のために何かできるチャンスは二度とないことなのだから」と胸を張って答えた。
 

ランキング

新着