2024/05/04

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外交

台湾外交の隠れた尖兵、飛行安全調査委員会が発足満20年に

2018/05/07
飛行安全調査委員会は今月で発足から満20年。飛行の安全分野における自らの技術力を強化してきたことで、様々な国際会議に参加するなど、台湾の外交の一翼を担ってきた。写真は独自で開発した、損壊したナビゲーション用チップを解読する装置。(中央社)
1998年は、台湾の空の安全にとって暗黒の1年だった。2月にはチャイナエアライン(中華航空)機が台湾北部の中正国際空港(当時=現在の台湾桃園国際空港)で着陸に失敗して墜落、3月にはデイリーエア(徳安航空)のヘリコプターが離島・澎湖沖で墜落。さらに同月、フォルモサ・エアライン(国華航空=当時。現在はマンダリン航空と合併)機が同北部・新竹市の沖で墜落した。この3つの航空事故が、飛行安全調査委員会(Aviation Safety Council, ASC)の発足を促すカギとなった。
 
1998年5月25日、飛行安全調査委員会が正式に発足。これにより、台湾の飛行事故調査は世界と歩調を合わせることとなり、同委員会は専門性と独立性のある機関へと歩み出した。設立当初は米国、欧州、カナダ、オーストラリアなどの先進国に学んだ。訓練のためスタッフを海外に派遣し、実験室を設けて他国での経験を学習するなど、まさに「ゼロからのスタート」だった。その後は、事故が起きる度に調査能力を鍛え、問題を見つけ出して台湾の空の安全を強化してきた。
 
過去20年来、飛行安全調査委員会は民用航空機、公的機関が業務に使用する航空機、超軽量動力機、及び熱気球などで130件の調査を執行してきた。また、外国及び中国大陸での事故調査などにも16件加わっており、飛行の安全を改善するための提案を合計988項目行った。こうした提案の対象は航空会社ばかりでなく、国内外の民用航空主務機関に対しても行われた。たとえば2015年の2月に起きたトランスアジア航空(復興航空、当時。現在は解散)機の台湾北部・台北市南港区での墜落事故。主な原因は人為的なミスだったものの、飛行安全調査委員会は墜落したATR 72型機の操縦ガイドのロジックには問題があるとして、EU(欧州連合)のEASA(欧州航空安全機関)及びATR社を吸収したエアバス・グループに改善の提案を行った。EASAとエアバス・グループは国際規定に基づき90日以内に飛行安全調査委員会に対して前向きな回答を行った。
 
飛行安全調査委員会は現在23人体制。調査員は20人未満で年間予算も6,000万台湾元(約2億1,830万日本円)あまりにすぎないが、飛行事故の調査以外、調査技術の向上にも取り組んでおり、世界の飛行事故調査の分野でその力を発揮している。20年間の努力により、当初は全く知られていなかった台湾の飛行安全調査委員会は世界の同分野で大いに評価されるまでに成長。マレーシアやインド、香港、米国、シンガポール、韓国、日本、及び中国大陸からもフライトレコーダーの解読要請を受けた。
 
飛行安全調査委員会は損壊したGPSチップを解読する独自の技術を開発している。通常の航空業者に所属するヘリコプターの多くはフライトレコーダーを装備していないため、ヘリコプターが事故を起こした場合、壊れたナビゲーション設備のチップをいかに解読するかが重要になる。飛行安全調査委員会は、ナビゲーション設備世界最大手の信頼を勝ち取り、認可を受けた上で、事故調査にのみ使用するナビゲーション用チップの解読器を開発した。これまでに日本、スロバキア、ロシアなどのヘリコプター用ナビゲーション設備のチップを解読、ロシアからはさらにロシアのスタッフが学習のため台湾に派遣された。
 
台湾の外交は困難に満ちているが、飛行安全調査委員会は飛行の安全分野における自らの技術力を一歩一歩強化してきたことで、外交関係機関の支援を受けずに、飛行の安全に関する様々な国際会議に参加してきた。また、同じく政府に属する米国の国家運輸安全委員会(NTSB)、フランスの航空事故調査局(BEA)、オーストラリアの運輸安全局(ATSB)、カナダの運輸安全委員会(TSB)、日本の運輸安全委員会(JTSB)などと緊密に交流し、協力している。
 
2003年に世界で立ち上げられた「Accident Investigator Recorder, AIR」ワーキングチームは飛行安全調査委員会による発案で、創始会員は米NTSB、カナダTSB、オーストラリアのATSB、フランスのBEA及び台湾の飛行安全調査委員会(ASC)。2004年には第1回AIR専門家会議が米NTSBで開催された。会議では全会一致で、飛行安全調査委員会がフライトレコーダー情報に関するプラットフォーム、「International Recorder Investigator Group, IRIG」を開設し、このプラットフォームをカギとなる技術に関する討論や技術の継承に用いることが決定した。
 
台湾はICAO(国際民間航空機関)の会員ではない。しかし、ICAOのワーキングチームが話し合う議題のほとんどはそれまでにAIRの情報プラットフォームで意見交換がなされている。このため、ICAOの会員ではないにもかかわらず、飛行安全調査委員会は飛行の安全に関わる法律面での動きや将来の計画についていち早く知ることが出来る。
 
飛行安全調査委員会は発足から2年後の2000年に、1993年に設立された国際運輸安全連合(ITSA)からの要請に応じてこれに加入。ITSAは各会員の事故調査に関する経験を共有し、様々な運輸機関のシステムの安全性強化を図る国際組織で、現在25カ国が加入。2008年には飛行安全調査委員会が台湾で年次総会を開催した。なお、第15回AIR会議も今年9月に台湾で開かれる。
 
 

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