2024/05/05

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経済

国立清華大学、新型コロナ患者の重症化リスクを2分で診断するキット開発

2020/07/01
国立清華大学(台湾北部・新竹市)生物医学工程研究所(=医用生体工学大学院)の鄭兆珉教授(写真)はこのほど、新型コロナウイルス感染者を対象に、その重症化リスクを2分で診断する世界初の臨床使用可能な簡易診断キットを開発した。写真右は2分以内にくっきりと2本の線が現れていることを示している。(国立清華大学サイトより)

新型コロナウイルスの感染者のうち、どういった患者が重症化するのか?国立清華大学(台湾北部・新竹市)生物医学工程研究所(=医用生体工学大学院)の鄭兆珉教授はこのほど、新型コロナウイルス感染者を対象に、その重症化リスクを2分で診断する世界初の臨床使用可能な簡易診断キットを開発した。新型コロナウイルスの患者の血清を垂らすだけで、呼吸困難などを引き起こすリスクがあるかどうかを知ることができる。

 

この簡易診断キットは国立清華大学と三軍総医院(=病院)が共同で研究・開発したもの。すでにプロトタイプが完成し、イタリアの医療機関の協力を得て臨床試験を実施している。新型コロナウイルスと最前線で闘う医療従事者に一日でも早く使ってもらえるよう、米食品医薬品局(FDA)に対して緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を申請している。これが認められれば直ちに上市することができる。

 

血液中のサイトカイン「インターロイキン-6IL-6)」の濃度がカギ

新型コロナウイルス感染者の中には、最初は風邪に似た軽い症状であるにもかかわらず、わずか数時間後に急激に症状が悪化し、重症化に至るケースがある。台湾でも実際、夫婦同時に感染が確定したにもかかわらず、うち一人だけが重症化したケースがあった。つまり、どのような患者が急激に重症化するリスクがあるか、いつごろ重症に転じるかを知ることは、新型コロナウイルスによる致死率を抑えるための重要なポイントだと言える。

 

鄭兆珉教授によると、国内外の医療機関の多くは現在、患者に呼吸困難などの症状が出ていないかどうかを観察してその重症度を判断している。海外の医療機関の中には、実験室で関連の検査を行って重症度マーカーを調べるところもあるが、結果が出るまでに1~2日必要だ。症状の進み方が非常に早い新型コロナウイルスの患者にとってこれでは遅すぎる。このため鄭兆珉教授は、病床でも使えて数分間で診断結果が分かるような簡易診断キットを作れないかと考えるようになった。

 

新型コロナウイルスの患者が重症化に転じるかどうかは、血液中のサイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)の濃度と関係していることが分かっている。ウイルスが強すぎると、免疫細胞がウイルスに抵抗できずにバランスを崩し、サイトカインが過剰に放出されることがある。国内外の多くの臨床データからも、今回の新型コロナウイルスの重症患者の死因の多くがウイルスそのものではなく、サイトカインが血中に過剰に放出される「サイトカインストーム」によるものであることが分かっている。

 

鄭兆珉教授が率いるチームと協力して簡易診断キットを開発した国防医学院の王永志助理教授によると、軽症患者の血中にあるIL-6濃度は通常10pg/ml以下であり、これが100pg/mlを超えると深刻な炎症反応が引き起こされていると判断ができる。一部の重症患者ではこの濃度が正常値の1,000倍以上に達することもある。簡易診断キットでどの患者の血中のIL-6濃度が高いかを知ることができれば、医療従事者が警戒を強め、適切な時期に気管挿管を行い、呼吸器の使用を開始できるようになる。

 

台湾で開発された世界初の新型コロナ重症化診断キット

高濃度のIL-6が含まれる血清を、指1本の大きさほどの白い試験片に垂らすと、2分も経たないうちに2本の赤い線がくっきりと表れる。これは、患者の体内で深刻な炎症反応が現れ始めていること、つまり重症度が高くなっていることを示す。もし、試験片に出てきた赤い線が1本のみであれば、まだ軽症であることを意味する。

 

鄭兆珉教授は、この簡易診断キットの登場により、重症患者がなるべく早い段階で呼吸器を使用できるようになるだろうと期待している。また、IL-6濃度が極めて高い患者に対しては、治療のタイミングを逃さないよう、抗IL-6製剤の使用を検討することも可能だ。また、このキットを使い続けることで、患者のIL-6濃度が低下して症状が好転しているかどうかを確認できる。それが分かれば、次の患者に呼吸器を譲ることもできる。

 

「台湾の感染症対策は海外でも称賛されている。簡易診断キットの開発でも、台湾の研究チームたちが国際貢献できればと考えている。そして全世界に、台湾製こそが品質保証のあかしであることを知ってもらいたい」と鄭兆珉教授は意気込む。

 

これほど短期間で新型コロナウイルスの重症化リスクを診断するキットを開発した裏には、鄭兆珉教授が2年前から研究していたIL-6簡易診断キットの存在があった。鄭兆珉教授によると、当時は新型コロナウイルスのパンデミックなど予想もしておらず、もともとIL-6の濃度を使って子宮内膜の病変を知ることのできる診断キットを開発した。しかも、使うのは血液ではなく膣内の分泌物だった。鄭兆珉教授は、「科技部(日本の文科省に類似)からIL-6の研究計画に対する助成を得られたことに感謝したい。その成果があったからこそ、今回このようにスピーディに新型コロナウイルス関連のキットを開発することが出来た」と語っている。

 

大学OBの企業が量産を支援へ

この簡易診断キットには、箱ティッシュほどのサイズの携帯可能な定量分析装置が附属している。試験片をそこに入れることで、血中のIL-6濃度を的確に測定することができる。その結果はスマホの画面に表示され、臨床診断をより正確に行うことができる。試験片と分析装置は今後、国立清華大学と共同開発や産学協力を行う2つのスタートアップ、健康新体験(HygeiaTouch Inc.)と神光晶片(SpectroChip)が量産に協力することになっている。

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