2024/05/03

Taiwan Today

文化・社会

スペインによる植民統治時代の言葉に関する新たな歴史資料を発表

2017/04/18
中央研究院台湾史研究所と国立清華大学などの研究グループが、約400年前に書かれた、漳州語の発音・漢字・スペイン語対照の「漳州語辞典」をフィリピンの大学で発見した。中央のあたりに「洗門風」が見える。(中央研究院提供、中央社)
台湾の最高学術研究機関、中央研究院台湾史研究所と国立清華大学(台湾北部・新竹市)、スペイン・バルセロナのポンペウ・ファブラ(Pompeu Fabra)大学、及びセビリア(Sevilla)大学による研究グループはこのほど、フィリピンの聖トマス大学の資料館で、今から約400年前の「漳州話詞彙(Vocabulario de la Lengua Chio Chiu=漳州語辞典)」を発見した。同資料は1,000ページに及び、2万語近くの単語が収録されているという。漳州とは中国大陸・福建省南東部の都市。中央研究院台湾史研究所は14日に開いたシンポジウムでこの研究成果を発表、明の時代の閩南語(福建省南部で話される言葉。福建省から台湾に渡ってきた人たちの言葉もその流れをくむ)に関する歴史資料として、今世紀最大の発見だとしている。原稿にある発音記号を使うことで、17世紀にマニラ及び台湾北部で暮らしていた閩南人(福建省南部の人たち)の言語を実際に「聴く」ことが可能になる。
 
研究グループはスペインやフィリピンなどの資料館で、16世紀と17世紀における台湾と中国に関するスペインの歴史資料を収集整理し、デジタル化したデータバンクを構築。過去2年間は、マドリード、セビリア、バルセロナなどの都市も訪れて閩南語の辞書や古書の発見に努めた。
 
今回発見された「漳州話詞彙」により、当時、漳州から渡った移民たちが日常使っていた言葉の他、その背景である暮らしぶりや地理的な知識を窺い知ることができ、かつて閩南地方から台湾に渡ってきた移民たちに対する認識も深められる。台湾でよく見られる毒ヘビのタイワンアオハブは、「漳州話詞彙」では「竹系蛇」とされ、スペイン人はこれを「Vibora(毒ヘビの意味)」と訳している。ホタルは「火金星(Hue Quion Che」。また、現在でも使われる「洗門風(Sey Muy Hong)」は、400年前の閩南人がすでに使用していたこともわかる。
 
閩南人には、過ちを犯した人に自らの過ちを書いたカードを持たせ、市場のそばで道行く人に謝罪させる習慣があり、これを「洗門風」と呼ぶが、「漳州話詞彙」にも「Sey Muy Hong」と明確に記載されている。当時のスペイン人はその文化的なイメージを理解することはできなかったかもしれないが、「漳州話詞彙」ではスペイン語ではっきりと、当事者の名誉を回復するためのものと解説されているという。中央研究院台湾史研究所の謝国興所長は、「漳州話詞彙」に収録された「洗門風」は閩南人本来の風習に近く、今若者たちが使う「洗門風」とは異なるのではと主張する。現在、台湾の人たちが使う「洗門風」は、公の場で恥をかかせることに近くなっており、謝所長は、「洗面(「けなす、嘲弄する」の意味)」という言葉と混同された可能性を指摘、「漳州話詞彙」によって本来の意味が明らかになることで、言葉の発展の脈絡と変化を理解できることは大変興味深いと話している。「漳州話詞彙」にはまた、清の時代の台湾における製糖場で使われた専門用語、「漏尾糖(Lau Bue Tung)」も明の末期にスペイン人によって加えられていた。さらには閩南人が人を罵るときに使ったスラングも「漳州話詞彙」に見られるという。
 
スペイン人は1571年、米国の銀を携えてフィリピンに上陸。豊かな暮らしを求める数万人とも言われる閩南人をマニラに引きつけた。スペイン人はまた、中国大陸の福建省での布教活動のため、マニラで暮らす閩南人の協力を得て関連の閩南語書籍を編纂、その最も大きな成果こそ「漳州話詞彙」だという。「漳州話詞彙」にある「鶏籠、淡水」にはスペイン語で、「Tierra de Isla Hermosa ado estan los españoles(台湾島でスペイン人がいるところ)」と書かれており、この原稿がスペイン人の台湾植民統治時代(1626年から1642年)までに書かれたことが証明できる。1711年に編纂が開始された「康熙字典」よりも100年近く早いものである他、現在までに見つかった16世紀、17世紀の閩南語の単語に関する文献の中でもその単語数が最も多く、内容が最も豊富なものだという。さらに、「漳州話詞彙」に書かれた単語のうち三分の一には当時の公用語(官話)の発音記号も記されていた。
 
漳州話に関する言語史料で最も有名なのは、漢学者のPiet van der Loonが発見した「漳州話語法(Arte de la Lengua Chio Chiu)」。約60ページにわたって2,000語近い単語を紹介している。しかし、今回発見された「漳州話詞彙」はその10倍近い単語を紹介しており、台湾における早期の閩南移民の言葉のデータバンクをより完全なものにできる。また、これまでの史料はスペイン語と閩南語の発音記号しか記されておらず、当時の記録者が発音を正確につかんでいなかったとしたら、数百年後の研究者が何の意味なのか知ることは大変困難だった。「漳州話詞彙」には漢字があり、一部には公用語の対照も付いているので、当時の例をいっそう正確に理解できるという。
 
蒋経国国際学術交流基金会のサポートを受ける同研究において、「漳州話詞彙」の解読では国立清華大学語言学研究所の連金発教授、中央研究院台湾史研究所の陳宗仁副研究員、国立清華大学歴史学科の李毓中副教授(准教授)、スペインの学者、José Luis Ortigosa氏らが共同作業を行った。「漳州話詞彙」は台湾の学術界に新たな研究のエネルギーをもたらすと共に、東南アジアや南アジアなどとの関係強化を目指す「新南向政策」に向けても学術と文化面での交流に新たな契機を与えたことになる。
 
 

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