2024/04/29

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文化・社会

王瓊玲の『待宵花』、八二三砲戦の忘れられた歴史を追う

2017/05/05
国立中正大学の教授で作家でもある王瓊玲さん(写真)が新作、『待宵花-阿禄叔的八二三』を発表。八二三砲戦の歴史を振り返り、戦争の愚かさや平和の尊さ、小市民の強靭さを伝える。(中央社)
国立中正大学(台湾中南部・嘉義県)中国文学学科の教授で作家でもある王瓊玲さんが長編小説の新作、『待宵花(マツヨイグサ)-阿禄叔的八二三(阿禄おじさんの八二三砲戦)』を発表した。八二三砲戦を経験した林徳禄さんをモデルに、激動の時代における小市民の愛情や葛藤、生活の様子を映し出している。八二三砲戦とは1958年8月23日から10月5日まで行われた中華民国軍と中共人民解放軍による大規模な砲撃戦。中共人民解放軍の砲撃で始まり、離島の金門が砲撃の標的となった。
 
王教授は、「台湾の歴史には二つの悲しい数字がある。二二八と八二三だ。多くの人が二二八事件には関心を寄せるが、八二三砲戦について語られることは大変少ない」と話す。八二三砲戦の歴史を埋没させないため王教授は新作を決意、取材と執筆に3年間費やした。取材では台湾本島から金門、対岸である中国大陸のアモイまでフィールドワークを行い、膨大な資料と格闘、実際に当時の戦闘に参加した元兵士及び兵士の遺族らへの取材も行って、今年ようやく完成にこぎつけた。
 
「待宵花」は金門島の代表的な花の一つ。夕方に満開になり、暗くなるにつれて美しくなり、香りを放つ。王教授は、林徳禄さんが砲撃戦による爆発で両目の視力を失い、片側の耳の聴力も失いながらも59年間、妻の阿香と力を合わせて困難を乗り越え、6人の子どもを育て上げ、人生に美しい花を咲かせたことを「待宵花」に例えた。また、阿香の名には「香りを伝える」意味が込められている。
 
『待宵花』はあくまで小説だが、王教授は「歴史の真相は芸術的な加工や文学的な修飾を経てはじめて人を引き付ける」と話す。物語を深く知れば知るほど、戦争の愚かさ、平和の尊さ、小市民の強靭さを深く理解することができる。王教授は、八二三は多くの人にとって、特別な意味を持たない、ただの数字かもしれないが、当時戦火の下で犠牲になった烈士やその遺族たちのことを忘れてはいけないと強調、『待宵花』が描く無情な戦争と、情けに満ちた小市民たちの姿を通じて、読者が小市民の心の痛みを感じとれるよう期待した。
 

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